長野から東京の方にでてきた俺。
仲のいい友達はいるけど恋愛をすることなくもう3度目のクリスマスを迎えようとしていた。




別に好きな人がいない訳では無い。






俺はついこの前、ある女の子に一目惚れした。
といっても名前も年齢も何も知らない彼女に。




俺は東京の少し外れに住んでるから、電車はかなりローカル線になる。
最初の方は車両に多く人が乗ってるけど、みんな乗り換えの時に降りていくし。



そんな空いた車内で見かけた子だ。



いつも音楽を聴いて幸せそうにしている彼女。
最初はちょっと面白いなと思って見てたけど、その幸せそうな顔やリズムに乗ってる足がちょっと可愛くて



気づいたら彼女にまた会いたいと思うようになった。




それから何度か電車で見かけることはあったけど
彼女は俺に気を止める様子も無かった。






そんなある日のこと。





土曜日でいつもよりも車内が混んでおり、俺も人混みに揉まれながら乗っていた。


大きく電車が揺れて、俺の足元にはひとつのAirPodsが当たった。




これは壊れたらかなりショックなやつ。

なんとか拾い上げた。





ヘッドホンを外してそっと耳に近づけると




「…！！」





俺が今聴いてた白い恋人たちが流れている。
俺と同じ曲をこの車内で聴いてる人がいたんだ。
なんかちょっと親近感。




多くの人が降りて行って車両に残った人は少なくなった。
そんな中、座席の下を覗き込むように探してる女の子がいた。




俺はすぐに気づいた。





彼女は、俺が一目惚れした人だと。






うるさく鳴る心臓を抑えて彼女に話しかけた。



「あの」
「は、はい！！…あ！！」



驚いて嬉しそうにする彼女があまりに可愛くて口角が上がってしまう。



そんな出会いから俺は毎日彼女のことばかり考えていた。
また会いたい。

我ながらキモイとは思う。





だけど彼女との再会は思ったより早かった。




俺がよく行くCDショップの店員で、
まさかの同い年で。



舞い上がった俺は、CDを聴いたら1番に感想を伝えに行くなんて言ってしまった。

家に帰って冷静に考えて、俺は頭を抱えた。
…あんなこと言って引かれてたらやばいなあ。




12月25日

また昨日と同じ時間ぐらいに店に行くと、坂井さんを見つけた。
今日はポニーテールをしていて、ゆるっと巻かれた髪の毛が似合っててめちゃくちゃ可愛かった。
また俺は口角を抑えて彼女の元に向かった。



「あ！！藤牧さん！！」
「昨日はどうも笑」
「ほんとに来てくれるなんて思いませんでした笑」


彼女の方から俺に気づいてくれた。
ほんとに来ない方がよかったかな…


「…すみません笑冗談だと思いますよね普通。」
「え？あ、いや！！めちゃくちゃ嬉しかったです笑」
「ほんとですか？笑」


「…私は、今日会えるかなって思って頑張ってたので。」



恥ずかしそうに俯いて話す彼女。


俺は思った反応じゃなくてちょっと驚いた。
もしかして…とか考えてしまう。



「…俺も、ほんとは坂井さんに会いたかったから笑」
「え…」


みるみる顔が赤くなる彼女。
俺も意を決して言った。



「あの、今日だけじゃなくて、明日も明後日も坂井さんに会いたいです。」
「…私も、私もずっと藤牧さんが…」


「坂井さーん！！ちょっと来てー！！」
「…！！」
「…！！」


最悪のタイミングで店長に呼ばれて、何か言いたげにこちらを見てソワソワする坂井さん。



「あ、えっと…」
「だ、大丈夫です笑行ってもらって。」
「そうなんですけど、えっと…」



「俺、今日は坂井さんが終わるまで待っといてもいいですか？？」



俺の言葉に彼女は顔を明るくして大きく頷いた。






それから俺たちは、音楽の趣味がめちゃくちゃ合うことが分かって、彼女も静岡から出てきた一人暮らしの子だと分かった。


色々共通点が多く、すぐにうちとけた俺たちはやがて恋人関係となり、3年経った今も何も変わらない。



いや変わったと言えば


お互い東京で就職し、2人共音楽関係の仕事に就いた。
そして来年、結婚することになってる。




クリスマスパーティーで大はしゃぎした彼女は今俺の腕の中で気持ちよさそうに寝てる。



「あなた、大好きだよ。」



スースーと寝息を立てる彼女には聞こえないかもしれないけど、俺はそう呟いてそっとキスをした。




メリークリスマス




何年後、何十年後も一緒にクリスマスを過ごせますように。


そう願って俺もゆっくり目を閉じた。





~fin~

2023年最後の更新でした😭
シリーズ系放置状態の私ですが、来年もよろしくお願いいたします❕