彼には以前、一度だけ
混みあった電車の中で助けてもらったことがある。
その日は特別混んでいて
しかも目の前にいた人がすごく背の高い人で。
その人が背負っていたリュックが
ちょうど顔に押しつけられてしまっていて
嫌な思いをしていると、
近くにいた彼がその人に声をかけて
向きを変えさせてくれた。しかも、
小声でそう言うと彼は
その人のリュックと私の間に入って
私に当たらないようにしてくれた。
彼はリュックを前に抱えているので、
私に背を向ける格好で立っていた。
背中に向かって声をかけると
彼は少し振り向いて笑ってくれた。
彼は近くの吊り革にうまく掴まり
私とくっつきすぎないように
隙間を作ってくれているようだった。
おかげで、駅に着くまで
苦しい思いをせずに済んだ。
電車はやっと駅に到着。
たくさんの乗客が吐き出され
押されるようにして外に出る。
そこまで話したところで
私も彼もお互い
待ち合わせしていた友達と会ったので
それっきり。
最後にニコリと笑ってくれた。
電車では必死すぎてよく見ていなかったけれど、
びっくりするくらい綺麗な顔立ち。
そんな人が助けてくれて
笑いかけてくれたりしたら…
何とも思わない方が無理でしょ…?












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!