可愛いお前
若くして道を間違えたお前
友になりえたはずの男を、女を、敵にしたお前
お前の人生が幸多からんことを。
デスイーターになった。父上も母上もデスイーターだ。闇の帝王に仕えるデスイーターだ。多分、純血の人間が多いのだろう。初めて顔合わせしたとき、顔見知りは数人いた。もちろん知らぬ者もいた。あなたもそうだ。純血かどうかは知らぬ。どこの生まれかも知らぬ。あなたという名前のみ知られているが、それ以外は誰に聞いても知らぬ存ぜぬと返される。
年は20代に見えるが言葉の重なり、言葉の選択はずっと昔に生まれた貴婦人のようだった。けれども、仕草は幾度も戦場を駆け抜けた女騎士のように見えた。独特の品を感じさせる物言いと、足音を立てずに移動する姿に不気味さを覚えた。
白髪にも銀髪にも見える髪は項が見えるほど短く切り揃えられていた。古風で品のある服を身にまとい、夏でも赤いレースの手袋を外さず、そこから覗くしろすぎる肌は温度を感じさせなかった。それが冷たい石畳の上に置かれた一人がけのソファに深く体を預けているのはやはりちぐはぐで、人間かすら疑わしい。
笑わない女ではない。帝王の問いかけや反応に困るジョークにくすと笑える者は彼女唯一人だった。帝王はそれをなにとも思っていないのだっろう。笑えることがあったのか、時折思い出したように赤い唇を横に伸ばす。
人間に見えぬ姿で、人間臭い仕草や表情をする。無意識に警戒するのも仕方あるまい。
あなたを歴戦の女騎士と表したが、あながち間違いでもないのだろう。人を殺せと命じられたとき、彼女は杖を剣のように構えた。それは剣を長く持ち続けた者特有の、慣れて癖になった構えだった。似たような持ち方をする人間を実家の使用人にいた。あれはすでに老人だったが、かつてはとある国の皇帝直属の護衛騎士団の団長だったという。魔法に体幹は関係ないとされるが、鍛えた者の一振りはそうでないものに比べて重さが違った。かの老人に杖を向けられたとき、初めて魔法を怖いと思った。あなたの杖の構えはこの世から去って久しい老人を久々に思い出させた。
あなたに声をかけられた。
「このようなものにはなりたくなかっただろうに、いたわしや」 と。
「若いというのに、血とは恐ろしいものよ。いっそ魔法など使えぬほうが幸せもあっただろうに」
言葉を重ねられて初めて頭が働く。このようなもの、とはデスイーターのことだろう。
「何が言いたい」
「おや、クチナシの子かと思えば。
意味もない婆の戯言よ。主に幸せを運ぶだけの花なぞには、お前もなりたくなかろうて」
「僕を馬鹿にしているのか。僕は自分でこうすることを選んだ。」
「コココ。人間よのう。まだまだ青くて人臭い。
おいお前、可愛いお前。近う寄れ」
これでいかないのは癪だった。蛇のような女だと思った。化かされているような気分で、不思議と恐れは感じなかった。あなたの足元に片膝立てて座り、下から彼女を仰ぐ。
「かわゆいな。親イタチが手元においておきたくなる気持ちもわかる」
爪が長くて細くて温度のない手が僕の頭をかき混ぜるみたいに撫でた。時折尖った爪が刺さってちくりと痛んだ。イタチの意味はわからぬが、両親のことを言ったのだろうということはわかった。
「お前にこれはできぬ。親どもを説得するがいい。お前の幸せはここにはない。ここでお前が学べるのは悪い大人を知ることのみ。疾く去ね」
彼女は気まぐれに僕に話しかけ、頭を撫でては「早く去れ」と急かす。よくわからないがここに僕の居場所はないのだろう。だからといって辞める理由にはならないため彼女の言葉を突っぱね続けた。
かのお方にダンブルドアを殺せと言われた。ダンブルドアに思い入れはない。しかし、初めて人を殺せと命じられた。腰のあたりがジンと痺れ、冷たく重くなっていく。結局僕は殺せなかった。あのお方はそれを咎めなかった。代わりにあなたを殺せと命じた。曰く、失敗は失敗であると。曰く、人は皆失敗から学ぶと。曰く、知らぬものを殺すことでは償いきれぬ失敗であったと。なるほど、ならば仕方がない。彼女を殺さねば僕が死に、家族が死ぬ。腰は痺れなかった。
「可愛いお前。王はご乱心か」
「いいえ。王は何も。私は私の罪を償わなければいけませぬ」
「そうか。王も可愛かった。可愛くて可愛くて。
お前、人を殺める魔法はわかるな」
「はい」
「ならば早くやれ。私はきっとお前を呪う。私を殺せ。お前が幸せになるまで呪ってやる」
その言葉を最後に彼女は死んだ。
はずだった。
多分続き出す。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。