マサイside.
1年は10年分の枷になり、
俺は泣きながら命を喰らう。
愛で奪ったものは返すことが出来なくて、
今日も惰性で生きていかなければならない。
…はやく、おねがいだから、おわってくれ。
もう、もういらないから。
自分の失態に気づいた時には、目の前の彼は疑問そうにしながら俺との距離を詰めている真っ最中だった。
早くこの場から立ち去らなければ。
しかし、足は思うように動いてくれない。
伸ばされた腕が俺の腕を力強く掴む。
その握られた手は優しい。
…優しいけれど、どうしようもなく胸が痛い。
男の目が、少し虚ろになる。
…あぁ、最後に"奪った"のは、何年前だっけ?
何十年前だっけ?…それとももっと前?
何時だって、いつだってそうだ。
…世界は、俺に無条件に優しい。
優しすぎるこの世界が、俺は、大嫌いだ。
そして、それに甘えてしまう自分も、大嫌い。
終わりにしたいだなんて口先だけで、体は勝手に生きたがってるというのに。
先程まで威勢のよかった彼の体がふらつく。
手を伸ばし抱き抱えると、もう意識はないようだった。
俺に比べて背は低いのに、がっしりとした体付き。
俺は彼を抱えながら、ゆっくりビルの階段を下り始めた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。