優劇荘の風呂は、
隣の旅館との共有スポットとなっていた。
そのおかげで広くて深く、
効能まで着いた露天温泉に毎日入れるのだが...
この疲労感には効能の効き目より、
なによりこの湯の暖かさが1番効くな。
と夜蘭がお湯に顔をつける
とろついたお湯を顔にぴしゃりとかけ、
星空に目をやる
ケフェウスに手を翳す。
暗くて、マイナーな星。
夜蘭はその星を北極星を頼りにしないと
みつけることすらできない。
だが、秋の夜。
ケフェウスは必ずそこにあって。
・・・ケフェウスって、どんな星だっかな
湯気に隠れ、気づかなかった。
リスタの声が後方から投げられ、その意味を噛み締めながらのろりと振り向く
ちゃぽん、と波紋が経つ
なんだかこの雰囲気を久しぶりに感じる
最近絶え間なく過去が苛烈に動き出していて、
なんだか流れについて行けなないような、安心できないような気概があった。
昔馴染みだからか、
隣にいるだけで安心がやってくる。
ここで再開するまであんなに歪み合ってたのに...
なんだか、いつもより素直になってしまう。
リスタの目に涙が溜まる
ただ声をかけただけなのに、ここまで?
邪険なような俺の声を聞いて、
リスタが少し尻込むのがわかる
だって、俺はひたすら前に進んできた
進まなきゃ行けなかった、
止まる訳にはいかなかった。
常に自分がすり減るような感覚が纏付きそれとは共に成長してきた。
成長しなきゃと歩んできたつもりだった
何がおかしいのか?
数秒後、自分の顔がくしゃりと安堵にしぼんでいた事にきずく
黙っていると、何かを感じとったリストがまた笑う
1番恐れてきたはずの言葉。
なのに
そんな裏腹な裏腹な言葉を吐きつつも、
俺は今内心酷く安心してしまっていた。
切り捨てるにつれ、自分が自分じゃなくなるような感覚が怖くて仕方なかった。
どこへ向かっていくのかわからなくて、怯えてた
なのに...
変わらない、だなんてな
笹に揺れる空が、漆黒が、記憶を辿ることの背中を押す
(お望みの通りに)
決まりきったポジションに、
性格も関係も奪われてたあの時とは、全く違う
そしてそのまま、
夜蘭は湯煙と共にぶくぶくとお湯に沈む
安堵と決意
まるで、何かの覚悟が決まったように晴れやかな顔で
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。