通帳を見ながら携帯を握り直す。
児童養護施設にいた頃の後輩が3か月後に結婚する。
お互いの境遇も分かり合える彼女は、私にとって唯一家族と呼べる存在だ。
耳がビリビリと震えるような大きな声で“勿体ない!”と言われて、思わず耳から携帯を遠ざける。
このまま聞いていたら後輩のカプ厨が発動してしまう、と挨拶もそこそこに通話を切った。
伊央里くんか。懐かしいな。元気だろうか。
高校を卒業してからもう6年近く経っているし、私のことなんて忘れられてそうだ。
カレンダーを眺めると、もう明日から9月に入ることを知る。
確か男の人だって言ってたような。
間違っても教育係にはなりませんように、とどこにともなく手を合わせた。
翌日。
朝礼が始まってすぐ、課長が新人が入ると紹介を始める。
周りに立ったお姉様方がきゃいきゃいと楽しそうな声を出しているので、さぞ素敵な男性なんだろうということだけは分かった。
私は関わることもないだろうと思い、課長の話を右から左に聞き流す。
バッと一気にこちらを刺す視線に、一瞬何が起きたのか理解するのが遅れた。
私の周りにも手が空いていそうなお姉様方がたくさんいるんですが……なんて言える訳もなく、しぶしぶ了承する。
朝礼の連絡事項も終わり、新人さんが課長に背中を押されるように私の隣に立った。
そう言って、分かりやすいように首に下げている社員証を見せる。
よく通る元気な声に謎の懐かしさを覚えながら、ようやく新人さんの姿をぼんやりと視界にとらえた。
私の真似をするように社員証を見せて笑う顔が、昔の記憶とリンクする。
【海月!? 綺麗だね! 手作り? キラキラで可愛いじゃん! 丁寧に作っててすごいね】
私が作ったアクセサリーをすごい熱量で褒めてくれた、昨日後輩とちょうど話していた男の子。
“目も合わないし、嫌われてるのかと思った”と悪戯っぽく笑われて、関心が無さすぎたことを少し申し訳なく思う。
そう差し出された手を、“こちらこそ”と握り返した。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!