文化祭当日。
——
朝から学校はお祭り騒ぎだった。
廊下には飾り付け。
教室から聞こえる音楽。
みんなテンション高い。
——
なのに。
私は全然落ち着かなかった。
——
理由?
聞くまでもない。
——
湊。
——
昨日、
階段から戻ってきた時のことが頭から離れない。
白石さんと二人だった。
何を話してたのかは知らない。
でも。
気になる。
気になって仕方ない。
——
「葵ー!」
友達に呼ばれる。
「看板お願い!」
「今行く!」
考えるのをやめる。
今日は文化祭。
今はそれだけ。
——
開場。
お客さんがどんどん入ってくる。
教室は大盛況。
気づけば、
昼休憩になるまでほとんど湊と話せなかった。
——
でも。
ふとした瞬間。
視線を感じる。
——
見る。
湊。
——
目が合う。
——
数秒。
——
そして。
どちらからともなく逸らした。
——
なんなの。
もう。
——
昼過ぎ。
ようやく少し休憩が取れた。
廊下の自販機で飲み物を買う。
——
その時だった。
——
「朝倉くん。」
——
聞こえた声。
——
白石さん。
——
思わず足が止まる。
——
角の向こう。
姿は見えない。
でも声は聞こえる。
——
行かなきゃ。
聞いちゃだめ。
——
そう思うのに。
足が動かない。
——
「文化祭終わったね。」
白石さんの声。
少し笑ってる。
でも。
少し震えてる。
——
「ああ。」
湊の声。
——
静か。
——
「約束覚えてる?」
——
心臓。
嫌な音立てる。
——
『文化祭終わったら、ちゃんと告白する。』
——
あの日の言葉。
蘇る。
——
「……覚えてる。」
湊。
——
その瞬間。
全部わかった。
——
告白だ。
——
聞きたくない。
でも。
逃げられない。
——
「好き。」
——
白石さん。
——
まっすぐだった。最後まで。
——
「本当に好きだった。」
「最初から。」
「今も。」
——
沈黙。
——
長い。
苦しい。
——
そして。
湊が口を開く。
——
「ごめん。」
——
息が止まる。
——
「俺。」
少し間。
——
「好きな人いる。」
——
世界が静かになる。
——
「……そっか。」
白石さんは笑った。
——
泣いてるのに。
笑ってた。
——
「知ってた気もする。」
——
沈黙。
——
「葵ちゃん?」
——
ドクン。
——
聞いてしまった。
——
返事。聞きたくない。
聞きたい。
——
矛盾だけど。
——
数秒。
——
そして。
——
「うん。」
——
頭、
真っ白になった。
——
聞き間違いじゃない。
——
絶対。
——
「そっか。」
白石さんは小さく笑う。
——
「負けたなぁ。」
——
その声。
今にも泣きそうだった。
——
「でも。」
少しだけ間。
——
「ちゃんと幸せになってね。」
——
白石さんらしい。
最後まで。
——
強かった。
——
「ありがとう。」
湊が言う。
——
そして、足音。
——
二人がこっちへ来る。
——
やばい。
——
私は慌てて近くの曲がり角へ隠れた。
——
心臓がうるさい。
——
聞いてしまった。
——
湊の好きな人。
——
私だった。
——
信じられない。
——
だって。
ずっと。
勘違いかもしれないって思ってたから。
——
『特別なの?』
——
白石さんの言葉。
——
『勘違いしてるだけじゃない?』
——
違った。
——
違ったんだ。
——
気づいたら。涙が出ていた。
——
今度は。悲しくてじゃない。
——
嬉しくて。
——
でも。
——
どうしよう。
——
明日、どんな顔で会えばいいの。
——
その答えは。
まだわからなかった。
——












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!