第28話

諦 め た く な く て ① ☽
1,842
2024/04/04 10:41
 
 
リクエスト作品🪄✨







_骨折_





和也side


和也「……え、骨折……?」




診察室で聞いたそんな言葉に、思考が停止してしまう。




朝早くからの仕事の日、寝ぼけてたんかスタジオに向かう階段で上から落ちてもうて。




今まで感じたことないような痛みが左足首に走って、マネージャーさんに支えてもらいながら病院まで来たんやけど…




「完全に折れている訳ではありませんが、深くまでヒビが入ってます。…酷い怪我ですね」



和也「そん、な……」




今日はお昼からライブのリハーサルがある。明日は夜に一公演ある。




怪我なんてしてる場合じゃないのに。




和也「…ちょ、ちょっと待って下さい。あの、僕明日ライブで、」



「ドクターストップ、というより……きっとその怪我じゃ、松葉杖無しでは歩くことも難しいと思いますよ」



和也「っ…」




目の前が真っ暗になる。




骨折?酷い怪我?




松葉杖が無いと、歩くのも難しい…?




「とりあえずギプスで固定しましょう。出来るだけ左足には負担をかけないように、気を遣いながら生活して下さい」




ギプスを巻き終わり、松葉杖をつきながら診察室を出る。




お会計を済ませマネージャーさんが待つ駐車場に行けば、俺を見て運転席から飛び出してきた。




「大橋!?…怪我、どうだったんだ?」



和也「………ヒビ、入ってるって、…」



「ヒビ、って………分かった、とりあえず今日のリハと明日の公演は出るの見送ろう。全員に連絡するから…」



和也「っ、待って、ッ!」




ライブの当落をドキドキしながら待ってること。俺らに会うために一生懸命可愛くなろうとしてくれてること。俺らを見て泣いて喜んでくれる子がいること。俺らに会うその数時間を、大事に大事に想ってくれていること。




エゴサが日課の俺は、全部全部知ってるから。




だから、絶対に穴は開けたくない。




和也「お願い、リハはちゃんと調整しながらやるからっ…やからライブは、明日の公演は出させて、お願い……っ」



「…いやでも、ヒビ入ってるんじゃ……」



和也「ちゃんとする。最後まで、ちゃんとやり切るから。迷惑かけんようにするから、やからっ…」



「そういうことじゃないんだけど…………じゃあ大橋」



和也「っ、はい…」



「………今日のリハは、音声確認の歌チェック以外全部見学すること。本番ギリギリまで足に負担かけないこと。明日の公演が終わったら、仕事セーブするから絶対に休むこと。…これが守れるなら、やれるだけやってみろ」



和也「っ、ほんまに、?ほんまにええの、ッ?」



「俺が言ったこと全部守れるならな。無理させたくないんだけど…大橋の気持ちも、痛いくらい分かるから。」




和也「っ、ありがとう、ありがと…ッ」




明日の一公演を乗り切れれば、次の公演は来月やから。




とにかく明日だけ。明日さえなんとかなれば。




和也「……ぁ、あの、メンバーのみんなにはっ」



「分かってる。…捻挫とでも伝えとくから。」



和也「…ん、ありがと、…」




車で今回の会場に向かいながら、病院で巻いてもらったギプスを外す。




捻挫じゃギプスなんて巻かんやろうし。




「ん、着いたよ。…メンバーとスタッフには捻挫だって伝えたけど、本当にやるんだな?」



和也「…ん、やる、……絶対やり切る」



「……分かった。やってこい」




もう一度お礼を言い車を出る。




さすがになんも無しじゃ歩けんくて、松葉杖は持ったままやけど。




いつもより倍以上の時間をかけてメンバーが集まる楽屋の前に着いた。




ガチャ




和也「、おはよぉ」



駿佑「大橋くんっ!…足のこと聞きました、大丈夫ですか、?」



流星「松葉杖って…相当酷い捻挫なん?」



和也「んー、今はちょっと痛いからさ、リハは歌以外出来ひんと思うんやけど…でもまぁ大丈夫よ、明日は出れる」



謙杜「そっか……無理せんといてくださいね、?」



恭平「ほんまほんま、大橋くんすーぐ無理するんやから」



和也「ふは、…うん、ありがとうな」




楽屋に着くなり駆け寄ってくる年下組が可愛くて、つい頬が緩んでしまう。




そのままぱたぱたとステージへ向かう4人を見て俺も会場に行こうと身体の向きを変えた瞬間、誰かに左腕を掴まれた。




和也「………だいちゃ、」




それは、ものすごく真剣な目をした大ちゃんと…後ろには、同じような表情をした丈くんで。




あぁ、やばい。バレてまう。




大吾「……なぁ、ほんまに大丈夫なん?…あんたがそんな怪我するなんて、相当やと思うんやけど」



和也「………朝な、スタジオ行こうとした時階段から落ちてもうて…」



大吾「階段から落ちた!?…え、それでほんまに捻挫だけなん?」



和也「……うん、ちょっと重めの捻挫やって。まだ落ちてすぐやからさ、今は痛いけど…明日には、ちゃんと動けると思うから」



大吾「ほんまやな?……あんたの言葉、信じてええんやな、?」



和也「……もぉ、信じてくれたらええやんかぁ、笑」



丈一郎「………大橋、俺の目見て」



和也「…っ、」



丈一郎「…その怪我は、捻挫なんやな?俺らに嘘ついてへんな?」



和也「…………ほんま、やもん」



丈一郎「…っ、はー……」



丈一郎「……ええわ。リハ行くぞ」




…バレへん、かったんか?




何も言葉を交わすこともなく俺の歩幅に合わせてくれる2人に、少しだけ不安になった。




謙杜「あ!3人ともー…もう、待ってましたよ?」



丈一郎「ごめんごめん、リハやろか」



大吾「はっすん客席座っとき。また歌の時上がってきたらええから」



和也「ん、ありがと」




客席に座り松葉杖を置けば、ピコン とスマホが鳴る。




ロック画面を見れば、それは丈くんからのメッセージで。




和也「丈くん…?」




ふとステージを見上げても、もうスマホなんて持ってない。




なんやろう…とトーク画面を開けば、2通のメッセージが見えた。




丈一郎:今日、リハ終わったらお前の部屋行くから
丈一郎:せめて俺にだけは隠さんといてくれ、頼むわ




和也「……っ、」




あぁ、もう…




和也「なんでいっつも…」




こうも隠したい嘘であればあるほど、見破られてしまうんやろう。





プリ小説オーディオドラマ