和也side
流星「お疲れ様、歌はさすが大橋くんやけど…ほんまに明日大丈夫、?構成組み直そか?」
和也「大丈夫大丈夫……ごめんな、不安にさせてもうて」
流星「謝らんといてよ、大橋くん悪くないやんか」
通しリハも音響チェックも終わり、7人で少しミーティングをした後それぞれ解散になって。
とにかく早く休もうとホテルへ足を進めてると、流星にそう話しかけられた。
「あんまり足使えへん構成とか…」と言ってくれる流星。
やっぱりダンスなんて出来ひんように見えるよな…なんて少し落ち込むけど、出ると決めた以上みんなで考えた最高の構成を俺のせいで変更したくはなくて。
ありがとう、と心配そうな顔をする流星の頭を撫でる。
和也「だぁいじょうぶよ。…明日、頑張ろな」
流星「………うん」
半ば強引にそう押し切りホテルに戻れば、一足先に戻ってた丈くんが俺の部屋の前で腕を組んで待ってて。
…あぁ、そうやった。
丈一郎「……大橋」
和也「…………いいよ、入って」
お互い、気なんて遣わへん関係なはずやのに。
ソファに腰掛ければ、どこからか気まずさが漂い無言の時間が続いてしまう。
そんな沈黙を破ったのは俺…ではなく、丈くんやった。
丈一郎「…………メールでも、言ったけどさ」
和也「………うん」
丈一郎「…せめて俺にだけは、なんの怪我なんか言ってくれへん?……分かるんよ、お前が嘘ついてることくらい」
和也「…っ、」
メールが来た時から、バレてるんやろうなとは思ってた。
それでも、どうしてもライブに出たくて。
どうしてもファンのみんなに会いたくて。
それが叶わへんなんて、想像しただけで涙が出てしまうから。
本当のことを言う前に、と前置きの意味を込めて口を開く。
和也「………俺、明日の公演はなんて言われても出るから」
丈一郎「……うん」
和也「……丈くんがいくら怒ったって、絶対出るから」
丈一郎「…別に怒らんよ。怒ってんじゃなくて……心配なだけやねん」
丈一郎「……んで?怪我、なんやったん」
静かに一つ、深呼吸をした。
和也「…………ヒビ、入ってもうてるって、……」
丈一郎「ヒビ、!?」
目を見開く丈くん。
途端に何処か心配そうな表情になる。
丈一郎「……階段から落ちた、って言ってたよな」
和也「、うん……ちょっと寝ぼけてて、」
丈一郎「いや…お前寝起きええし、仮眠しても起きたらいつもシャキッとしてるやん。寝ぼけてるって…そんなことある?」
和也「ちゃ、なんか……自分でもよう分からんねんけど、なんか最近疲れとるみたいでさ…」
お仕事を忙しくさせてもらってる分、睡眠時間や休息時間なんてものは真っ先に削られていって。
元々準備に時間がかかるタイプなせいで、ここ最近の睡眠時間は平均2、3時間。
歩いてるのに珍しく寝ぼけてたのもそのせいかな…なんて、頭のどこかでは考えてたし。
丈一郎「…誰かになんかされたとか、そういう訳ではないん、?」
和也「……へ、?」
不意に予想もしてないような言葉を投げられ、思わず顔を上げてしまった。
丈一郎「いや、例えば…スタッフさんに後ろから押された、とか…」
和也「っえ、ちゃうちゃう!それはないって、」
丈一郎「っ、ほんまか?」
和也「うん、それはほんまに無いよ…ほんまのほんまに寝ぼけてて、」
丈一郎「っはー……あぁ、良かった…いや、良くはないねんけど……とりあえず良かった…」
「無駄に体力使ったわ…」なんてソファの背もたれに身体を預ける丈くんに、思わず吹き出してしまう。
和也「…っふ、ふははっ」
丈一郎「おい、何がおもろいねん。こっちはこんだけ心配してるってのに」
和也「んふ、ごめんごめん……やって丈くん、さすがにそれは過保護すぎるんやもん笑」
丈一郎「すーぐ隠し事するような奴には過保護すぎるくらいが丁度ええやろ」
和也「…それは……ごめん、」
丈一郎「いや、別に謝って欲しいんとちゃうけど…んで?俺以外に知ってる人は?」
和也「…マネージャーさん。今日病院も連れて行ってくれて、……明日のライブ終わったら、ちょっと休みくれるって」
丈一郎「そうか。まぁマネージャーさん知ってるんやったら良かったわ……最近仕事忙しそうやったし、この機会にちゃんと休めよ」
和也「……ん、ありがと」
丈一郎「……んで、こっからは明日の話やけど」
和也「………うん、…」
真剣な顔をする丈くんに、背筋が伸びる。
反対されること覚悟で手をぎゅっと握り締めると、思いがけない言葉が聞こえた。
丈一郎「えーっと…まず、昼にある最終リハは見学して。会場なり楽屋なり、移動する時は俺がおぶるから一人で動かんといて。ライブも、トークとか踊れへん曲の時は俺の隣おって。あと…」
丈一郎「……メンバーとかスタッフさんに伝えへんのやったら、俺にだけは今どう痛いか逐一報告して。…分かった?」
和也「っ、え……俺のこと、止めへんの…?」
丈一郎「いや、ほんまはヒビ入ってる奴にライブなんてさせたないけど…どうしても出たいんやろ、お前」
和也「………うん」
丈一郎「分かってるから。…お前が出たい気持ちも、後輩に心配かけたくない気持ちも」
最年長と、リーダー。
似たような境遇で切磋琢磨しあってきたからこそ、きっと通ずるものがあって。
丈一郎「俺テーピング持ってきたから。ギプスより全然頼りにならんやろうけど…やってるだけマシやろ。足出して」
和也「…ありがと、丈くん」
ソファに座る俺の前にしゃがみ込んでテーピングを巻いてくれる丈くん。
丈一郎「明日は無理してええけど、無理するのは俺の前だけにしてな」
なんて目を合わせてくるから、守ってくれる嬉しさや気恥ずかしさで思わずふいっと目を逸らした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。