第62話

Let's go to Sendai !
602
2026/02/27 23:40 更新
IHを終え、日常が戻ってきた。

外では蝉がこれでもかと言うほどに大合唱を続けている。
黒須監督
お前らー、集合!
黒須監督が号令をかけ、全員が集まる。
黒須監督
突然やけど、
10日後に他県との練習試合が決まった!
尾白アラン
どことやるんですか?
アランがすかさず質問を投げかける。

監督は堂々と答えた。





黒須監督
宮城の、青葉城西ちゅうところや!



銀島結
青葉…城西?
宮治
知っとるか?
角名倫太郎
いや、知らない
宮侑
宮城って、白鳥沢ウシワカんとこよな?
2年達が騒つく中、監督が此方こちらに視線を遣る。
私も話せ、ということだろう。


今回の練習試合を組むように監督へお願いしたのは、
私なのだから。
あなた
……青葉城西は、今回のインハイ予選で決勝まで残ったチームです。
映像を確認した感じだと、まあレベルは高い。
ただ、宮城の枠が1つしか無いから全国に行けてないという感じですね
全体的に安定感があり完成度の高いバレーはするが、
相手にさらに強力な選手がいるから勝ちきれない。


あり得ない“たられば”の話ではあるが、
白鳥沢が宮城にいない、あるいは宮城の枠が2つ空いていれば何度も全国に出場しているだろうし、
全国相手にもそれなりに通用する力は持っていると思う。



そして何より。
あなた
……あと、いいセッターがいますね。“あの”牛島に、白鳥沢に来るべきだったと言われる位には
焚き付けるようなことを言えば、
周囲の空気が締まった。


負けず嫌いの彼もすぐに反応を示し、
「誰やソイツは」
とでも言わんばかりのピリついた雰囲気を出している。




―――青葉城西に練習試合を依頼した理由。

それは青城のセッターである、あの男の存在にあった。


森然の合宿で話題に上がったこともあり、改めて今年の青城対白鳥沢―インハイ予選決勝を見返してみた。

見始めてすぐに、彼の持つ技術の高さに驚かされる。

まず、サーブの威力。

彼のスパイクサーブは高威力でありながら、精密なコントロールを持っていた。

あれほど強烈なサーブの持ち主もそうそういないだろう。

そして、スパイカーの100%を引き出すセットの技術。
あれは彼の洞察力が高さから来ているのだと思う。

どんな相手と組もうとすぐに実力を見抜き、相手の100%に合わせたトスを上げる。


トス、といえば。

烏野の影山君――

影山君のトス回しには目を見張るものがあるが、
“彼”はそれ以外の部分、例えばサーブやチームの統率力で、影山君よりも秀でた技術を持っている。

現時点で考えれば、
より司令塔として優秀なのは“彼”の方だろう。

そんな彼がいるからこそ、
青葉城西と戦ってみたいと思った。
あなた
――そういう訳で、私から彼方あちらに声を掛けたところ、快く了承の返事を頂けたので、青葉城西と練習試合をすることになりました。

………ただ、
………ただ?

と、全員が先の言葉を待っているのがわかる。
あなた
練習試合は8月後半。
しかも場所は宮城なので、数日の遠征になります。
この先に私が言おうとしている言葉を察知した何人かは、若干顔を青ざめさせている。特に侑。

そんな彼らをスルーし、私は非情な一言を投げかけた。


あなた
―――夏休みの課題。
出発までに終わらせていない人は、
この遠征に行けません。
練習試合まであと10日。

ただ、前日には出発をするので、
残された期間はあと9日。


その中で、全日オフは2日。

“これ”が意味することは明らかだった。









あなた
――まだ課題に手をつけていない人は、
勉強合宿、強制参加です



















迎えた9日後、正午。

私達は、仙台の地に降り立っていた。
宮侑
……着いたぁぁぁ!!宮城!!
侑の声が響き渡る。

課題という名のデスゲームを勝ち抜いた解放感からか、
その表情はいつになく晴れやかだ。
北信介
侑、静かにしい。他のお客さんの迷惑や
宮侑
すんません!
そしてすぐに信介に注意されていた。

解放感を味わうのはいいが、
他の人に迷惑を掛けるのはいただけない。
宮治
……あなたの下の名前さん、
さっき言うてたのって、ホンマですか?
治がこそっと尋ねてくる。

その目は期待からキラキラと輝いていた。
あなた
勿論。嘘はつかないよ
今回の遠征は課題を完璧に終わらせた者へのご褒美として、初日の午後は自由行動……

つまり、仙台観光の時間を設けていた。
あなた
今日は移動日だし、明日の練習試合に響かない程度なら自由にしていいって
監督からも許可を得たその内容を伝えれば、
2年生達は一斉にガッツポーズを決め、
3年生達も嬉しそうな顔をした。

















ホテルに到着し、
大きめの荷物は自分たちの部屋に置いた。

全員がホテルから出てきたのを確認し、
信介と声を掛ける。
あなた
それじゃあ、今から自由時間ね。
戻ってくるのは午後6時半。
北信介
1人で行動するんは禁止。必ず2人以上で行くように
あなた
もしも迷ったら私か信介に連絡すること。
北信介
ほな、解散
信介の合図と共に、
2年生達は意気揚々と仙台へ繰り出していった。
宮侑
サム!牛タンや!まずは牛タンやぞ!!!
宮治
わかっとるわ!『善◯郎ぜんじろう』行くで、『善◯郎』!
角名倫太郎
……さっき昼食べたばっかだよね?
そう言いながらも、
角名はスマホを取り出して何かを検索している。

美味しいスイーツの店でも探しているのかもしれない。



彼らを見送った後、私も手元の観光マップを広げた。
北信介
あなたの下の名前はどうするん?1人行動は禁止やけど
信介も私のマップを覗き込む。
あなた
いくつか周りたいところがあるかな。信介は?
北信介
俺は特に無いわ。あなたの下の名前が行きたいとこあるんやったら付き添うで
あなた
じゃあ一緒に周ろう……
……あれ、銀?
私の声に反応した銀は、
どこか呆然とした顔をしていた。
銀島結
……あなたの下の名前さん、北さん
あなた
…もしかして、あの3人双子と角名見失った?
銀島結
そうです……
銀はどこか悲しげにも、
恥ずかしがっているようにも見える顔で頷いた。

信介と顔を見合わせる。


あの3人に今すぐ連絡を取ってもいいけど、
お互いの観光の時間を最大限に確保するためには………
あなた
……なら、私達と一緒に周る?
銀島結
私も信介も3年生だけど、
こうなったからには仕方がない。


唐突な提案に銀は驚いたようだけれど、
次の瞬間には笑顔で頷いていた。
銀島結
お願いします!
北信介
部活中とちゃうし、そないに気ぃ張らんくてええから
笑顔、とは言いつつも少し緊張した面持ちだった銀も、
信介の言葉で緊張を緩めた。




せっかくの仙台観光なのだから、
後輩には楽しんでもらいたい。

それが親心ならぬ“先輩心”だ。



頭の中で考えていた行き先を変えて、
後輩が目一杯楽しめるコースに変更する。

こうして、私・信介・銀という
なかなかない3人組での仙台観光が始まるのだった。







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