IHを終え、日常が戻ってきた。
外では蝉がこれでもかと言うほどに大合唱を続けている。
黒須監督が号令をかけ、全員が集まる。
アランがすかさず質問を投げかける。
監督は堂々と答えた。
2年達が騒つく中、監督が此方に視線を遣る。
私も話せ、ということだろう。
今回の練習試合を組むように監督へお願いしたのは、
私なのだから。
全体的に安定感があり完成度の高いバレーはするが、
相手にさらに強力な選手がいるから勝ちきれない。
あり得ない“たられば”の話ではあるが、
白鳥沢が宮城にいない、或いは宮城の枠が2つ空いていれば何度も全国に出場しているだろうし、
全国相手にもそれなりに通用する力は持っていると思う。
そして何より。
焚き付けるようなことを言えば、
周囲の空気が締まった。
負けず嫌いの彼もすぐに反応を示し、
「誰やソイツは」
とでも言わんばかりのピリついた雰囲気を出している。
―――青葉城西に練習試合を依頼した理由。
それは青城のセッターである、あの男の存在にあった。
森然の合宿で話題に上がったこともあり、改めて今年の青城対白鳥沢―インハイ予選決勝を見返してみた。
見始めてすぐに、彼の持つ技術の高さに驚かされる。
まず、サーブの威力。
彼のスパイクサーブは高威力でありながら、精密なコントロールを持っていた。
あれほど強烈なサーブの持ち主もそうそういないだろう。
そして、スパイカーの100%を引き出すセットの技術。
あれは彼の洞察力が高さから来ているのだと思う。
どんな相手と組もうとすぐに実力を見抜き、相手の100%に合わせたトスを上げる。
トス、といえば。
烏野の影山君――
影山君のトス回しには目を見張るものがあるが、
“彼”はそれ以外の部分、例えばサーブやチームの統率力で、影山君よりも秀でた技術を持っている。
現時点で考えれば、
より司令塔として優秀なのは“彼”の方だろう。
そんな彼がいるからこそ、
青葉城西と戦ってみたいと思った。
………ただ?
と、全員が先の言葉を待っているのがわかる。
この先に私が言おうとしている言葉を察知した何人かは、若干顔を青ざめさせている。特に侑。
そんな彼らをスルーし、私は非情な一言を投げかけた。
練習試合まであと10日。
ただ、前日には出発をするので、
残された期間はあと9日。
その中で、全日オフは2日。
“これ”が意味することは明らかだった。
迎えた9日後、正午。
私達は、仙台の地に降り立っていた。
侑の声が響き渡る。
課題という名のデスゲームを勝ち抜いた解放感からか、
その表情はいつになく晴れやかだ。
そしてすぐに信介に注意されていた。
解放感を味わうのはいいが、
他の人に迷惑を掛けるのはいただけない。
治がこそっと尋ねてくる。
その目は期待からキラキラと輝いていた。
今回の遠征は課題を完璧に終わらせた者へのご褒美として、初日の午後は自由行動……
つまり、仙台観光の時間を設けていた。
監督からも許可を得たその内容を伝えれば、
2年生達は一斉にガッツポーズを決め、
3年生達も嬉しそうな顔をした。
ホテルに到着し、
大きめの荷物は自分たちの部屋に置いた。
全員がホテルから出てきたのを確認し、
信介と声を掛ける。
信介の合図と共に、
2年生達は意気揚々と仙台へ繰り出していった。
そう言いながらも、
角名はスマホを取り出して何かを検索している。
美味しいスイーツの店でも探しているのかもしれない。
彼らを見送った後、私も手元の観光マップを広げた。
信介も私のマップを覗き込む。
私の声に反応した銀は、
どこか呆然とした顔をしていた。
銀はどこか悲しげにも、
恥ずかしがっているようにも見える顔で頷いた。
信介と顔を見合わせる。
あの3人に今すぐ連絡を取ってもいいけど、
お互いの観光の時間を最大限に確保するためには………
私も信介も3年生だけど、
こうなったからには仕方がない。
唐突な提案に銀は驚いたようだけれど、
次の瞬間には笑顔で頷いていた。
笑顔、とは言いつつも少し緊張した面持ちだった銀も、
信介の言葉で緊張を緩めた。
せっかくの仙台観光なのだから、
後輩には楽しんでもらいたい。
それが親心ならぬ“先輩心”だ。
頭の中で考えていた行き先を変えて、
後輩が目一杯楽しめるコースに変更する。
こうして、私・信介・銀という
なかなかない3人組での仙台観光が始まるのだった。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。