第2話

地上の洗礼
7
2026/08/25 00:14 更新
──風が、吹いていた。
終宮 息吹
............
息吹は、しばらく何も言えなかった。

目の前に広がっているのは、映像でしか見たことのなかった世界。

空。

雲。

太陽。

そして、人間がかつて暮らしていた街。
終宮 息吹
これが……地上…...
崩れた道路。

草に覆われた建物。

遠くに見える、傾いた高層ビル。

十五年前までは、ここにも人々の生活があった。

学校があって。

会社があって。

店があって。

家があった。

今では、その多くが自然と瓦礫に埋もれている。
終宮 息吹
──すごい
思わず、息吹の口から言葉が漏れた。
鉄川 業
感動してるところ悪いけど
鉄川 業
仕事なんだから集中して
終宮 息吹
!
はい!
気を引き締める。

今日の任務は、探索部による地上調査の護衛。

新人である息吹にとっては、初めての実戦だ。

少し離れた場所では、探索部の隊員たちが機材を確認している。

そしてそのさらに後ろ。

蒼は腕を組んで立っていた。
九鬼 蒼
............
特に何も言わない。

ただ、全員を見ている。

息吹は少し緊張しながら剣の柄を握った。

水色の刀身。

オルタイト製の剣。

その言葉を聞いたときのことを思い出す。



――オルタイト。



アビサルが現れてから、地中や地上のあちこちで見つかるようになった特殊鉱石。

色によって性質が違う。

自分の剣に使われている水色は、エネルギー密度と重量のバランスがよく、加工もしやすい。

だから武器に向いている。

蒼の双剣には青と橙。

青はエネルギー密度が高くて重く、橙はエネルギー密度が低くて軽い。

業の短剣は紫。

特徴は少ないものの、武器として利用できる。

――詳しいことまでは、まだ解明されていない。

けれど、一つだけ確かなことがある。



オルタイトで作られた武器は、アビサルに有効だ。



そして、もう一つ。

自分たちには、アビサルと戦うための力がある。



──深界能力。



人によって異なる、特殊な能力。

同じものを持つ人間は存在しない。

息吹の場合は「重力操作」。

対象一体の重力を操る。

強くすることも弱くすることも。

方向を変えることもできる。

全ての深界能力は代償として、使用するたびに少しだけ生命力を消費する。

それでも、これがあるから、人類は戦える。
九鬼 蒼
終宮
終宮 息吹
はい!
九鬼 蒼
そろそろ始まる
終宮 息吹
了解です!
蒼はそれだけ言うと、再び黙った。

その姿を見て、息吹は少し不思議に思う。

(――蒼隊長、戦わないのかな?)

その疑問は、すぐに解消された。
鉄川 業
――来るよ
地面が揺れる。
終宮 息吹
え?
「ズンッ!」

道路の一部が盛り上がった。

直後、瓦礫と土砂を撒き散らしながら、一体の獣型アビサルが姿を現した。
探索部員
アビサル!
蒼は動かない。

ただ、息吹を見る。
九鬼 蒼
終宮
終宮 息吹
はい!
九鬼 蒼
行ってこい
息吹の心臓が跳ねた。
終宮 息吹
......私が?
九鬼 蒼
新人の力量を見せてもらうためだ
蒼はそれだけ言った。
終宮 息吹
……分かりました!
息吹は剣を抜いた。

アビサルが咆哮する。

(四級程度か...)

初任務の相手としては十分な敵だ。
終宮 息吹
――来い!
アビサルが突進してくる。

息吹は横へ跳んだ。

爪が目の前を通り過ぎる。
終宮 息吹
速い!
(でも、避けられる!)

振り返ったアビサルへ、息吹は手を振りかぶった。
終宮 息吹
――重く!
腕を勢いよく振り落とす。

すると、アビサルの身体が地面へ叩きつけられる。
アビサル
グァッ!?
そのまま動きを封じる。
終宮 息吹
そこ!
息吹が踏み込む。

水色の剣が閃いた。

一撃。

二撃。

最後の一太刀がアビサルを切り裂く。

黒い身体が崩れ――

塵となって消えた。
終宮 息吹
.........
息吹は剣を下ろす。
終宮 息吹
勝った...
鉄川 業
うん
いいんじゃない?
業が頷く。

蒼は少し離れた場所から戦闘を見ていた。
九鬼 蒼
悪くない
終宮 息吹
本当ですか!?
九鬼 蒼
ああ
ただし、まだ力を使いこなせてはいない
終宮 息吹
.........はい!
蒼はそれ以上何も言わない。

でもそれだけで、息吹は次も頑張ろうと思えた。






アビサルと討伐部員には階級がある。

五級、四級、三級、準二級、二級、準一級、一級の七段階ある。

五級は一般人でも備えがあればなんとか対処可能。

一級はホームを二層程壊滅可能なレベルの強さ。



その後も、アビサルは何度か現れた。

五級。

四級。

また四級。

そのたびに、息吹が前へ出る。
終宮 息吹
――重力操作!
敵の動きを鈍らせる。
終宮 息吹
そこ!
剣を振る。

また一体、塵と化す。
終宮 息吹
次!
息吹は少しずつ戦い方を覚えていった。

そして、そのたびに蒼はほとんど動かなかった。

腕を組み。

息吹を、新人を、周囲を見ている。

ただし一度だけ、

四級アビサルが突然方向を変え、探索部の一人へ襲いかかった。
終宮 息吹
――!
息吹が反応するより早く。

蒼の姿が消えた。

次の瞬間、
九鬼 蒼
――遅い
蒼が探索部員の前に立っていた。

青と橙の混ざる一閃。

アビサルが吹き飛ぶ。
終宮 息吹
.........
あまりにも一瞬だった。

蒼は何事もなかったかのように戻ってくる。
九鬼 蒼
続けろ
終宮 息吹
...はい
息吹は思った。

(――この人)

(やっぱり、強い)





任務は順調に進んだ。

探索部が予定していた調査を終え、帰還の準備を始める。
終宮 息吹
このまま何事もなく帰れそうですね
鉄川 業
そうだといいけど
蒼は少しだけ周囲を見回した。
九鬼 蒼
............
終宮 息吹
蒼隊長?
九鬼 蒼
いや...
蒼は何も言わなかった。

その直後だった。

「――ドンッ!!」

大地が揺れた。
全員
!?
全員が振り返る。

遠くの建物の影。

そこから、大きめな獣型アビサルが飛び出してくる。
鉄川 業
三級...!
業が構える。
九鬼 蒼
三級...
それも上位か?
息吹は剣を握る。
終宮 息吹
私が――!
九鬼 蒼
行け
蒼はやはり動かない。
終宮 息吹
はい!
アビサルが突っ込んできた。

(速い!)
終宮 息吹
っ!
息吹は紙一重で避ける。

アビサルが方向転換。

また突っ込んでくる。

息吹は重力を操作する。

しかし、
終宮 息吹
――間に合わない!
アビサルが目前まで迫った。

その瞬間。

蒼が動いた。


九鬼 蒼
――そこまでだ



一閃。

アビサルの攻撃が弾かれる。
九鬼 蒼
終宮
九鬼 蒼
もう一度
終宮 息吹
……はい!
蒼は再び下がった。

息吹は息を整える。

(――速いだけだ...)

(なら!)
終宮 息吹
動きを読めば……!
アビサルが走る。
終宮 息吹
今!
重力の方向を変える。

アビサルの身体が僅かに逸れた。

その隙。
終宮 息吹
――っ!
剣を振る。

(深く入った!)

アビサルがよろめく。
終宮 息吹
もう一度!
重力を強める。

アビサルが地面へ落ちる。
終宮 息吹
これで──!
息吹が踏み込む。

だが、
アビサル
グォォォッ!!
アビサルが最後の力で暴れた。

大きな身体が建物へ激突する。
終宮 息吹
まずい!
建物に亀裂が走った。
九鬼 蒼
倒れるぞ!
轟音。

巨大なビルが傾く。
鉄川 業
逃げて!
探索部員たちが走る。

だが、瓦礫の下に人が残っている。
終宮 息吹
――!
息吹が走り出す。
九鬼 蒼
終宮!
終宮 息吹
助けます!
九鬼 蒼
無理はするな!
終宮 息吹
分かってます!
息吹は重力を操作した。

倒壊の勢いを少しでも減らす。
終宮 息吹
ぐっ……!
生命力が削られる。

(...それでも!)
終宮 息吹
まだ……!
蒼も瓦礫を退ける。

業も救助に加わる。


探索部員
あと一人!
探索部員
こっちだ!
討伐部員
いた!




数十秒後。

最後の一人を救出した直後。

ビルが轟音を立てて崩れ落ちた。

息吹はその場に座り込んだ。
終宮 息吹
……はぁ……はぁ……
蒼が近づく。
九鬼 蒼
よくやった
終宮 息吹
...はい!
九鬼 蒼
だが、単独で突っ込むな
終宮 息吹
……すみません...
九鬼 蒼
次から気をつけろ
終宮 息吹
はい!
蒼は頷く。

そして、初めて少しだけ笑った。
九鬼 蒼
これからも精進していけ
終宮 息吹
……!
息吹の顔が明るくなる。





ホームへ帰還した頃には、すっかり疲れ切っていた。

自室へ向かって歩く。

今日の出来事を思い返していると――
???
――ねえ、聞いた?
前方から声がした。
探索部員
何を?
討伐部員
第一層の外れでさ
探索部員
またそういう噂?
討伐部員
本当なんだって!
息吹は歩きながら、何となく耳を傾けた。
討伐部員
別の探索部の人が見たらしいよ
探索部員
何を?





討伐部員
……人が殺されてたんだって





探索部員
アビサルに?
探索部員
違う
声が少し低くなる。
討伐部員
人間に、だよ
息吹の足が僅かに止まった。
討伐部員
それにその場所、アビサルが倒された直後だったんだって
探索部員
どういうこと?
討伐部員
周りに、アビサルが死んだ跡だと思われる塵がいっぱい舞ってたらしいの
討伐部員
その塵の中で、人が殺されてたんだって
探索部員
.........
討伐部員
だから、最近こう呼ばれてる
声が小さくなる。








               ───────── 塵の中の殺人鬼 ─────────








探索部員
……都市伝説みたいな話じゃん
討伐部員
でも、第一層で目撃した人がいるらしいよ
探索部員
誰だったの?
討伐部員
分かんない
探索部員
じゃあ殺人鬼の正体は?
討伐部員
それも分かんない
探索部員
.........なにそれ...
二人の声が遠ざかっていく。

息吹はしばらく、その場に立っていた。
終宮 息吹
……塵の中の、殺人鬼......?




作者
よっしゃいい感じ!
作者
調子いい!
作者
え?また長文だって?
作者
仕方ないじゃん!
AIなんだし完成度高いんだもん!
作者
五話まで完成済みだからテンポよくいこー!

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