「君の膵臓をたべたい」
学校の図書室の書庫
ほこりっぽい空間で本棚に並べられた書籍達の順番が正しいものか確認するという、図書委員としての任務を忠実にこなしている最中に、西畑大吾がおかしな告白をしてきた
無視しようかと思ったけど、この空間にいるのは私と彼だけで、ひとり言というにはあまりに猟奇的なそれは、やっぱり私に向けているんだろう
仕方なく、背中合わせに本棚を見ているはずの彼に反応してあげる
『いきなりカニバリズムに目覚めたの?』
彼は大きく息を吸って、ほこりに少しむせてから、意気揚々と説明を始めた
私は彼の方を見ない
「昨日テレビでみたんよ、昔の人はどこか悪い所があると、他の動物のその部分を食べたんやって」
『それが?』
「肝臓が悪かったら肝臓を食べて、胃が悪かったら胃を食べてって、そうしたら病気が治るって信じられていたらしいんよ
やから西畑は君の膵臓をたべたい」
『もしかして、その君っていうのは私のこと?』
「他に?」
くすくすと笑う彼もこちらを見ず仕事に従事しているようだった
ハードカバーの本を並べ替える音が聞こえる
『私の小さな内臓に、西畑君のを救うなんていう重荷は背負わせられないな』
「プレッシャーで胃まで痛くなっちゃいそうやね」
『だから他をあたってよ』
「他に誰をあたれって?
流石の西畑も家族は食べられる気がせーへんしなぁ」
また彼はくすくすと笑う
私といえば、真面目にも無表情で仕事をこなしているのだから、見習って欲しいものだ
「だから、結局【秘密を知っているクラスメイト】ちゃんにしか頼めへんよ」
『西畑君の算段の中には、私が膵臓を必要としているって可能性はないの?』
「どうせ膵臓の役割もしらないんやないの?」
『知ってるよ』
知っている
その聞き慣れない臓器のことを、私は以前調べたことがある
無論、彼がきっかけで
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!