第9話

9話:ゴールデンウィーク合宿開始
446
2026/02/23 12:57 更新

遂にゴールデンウィークがやってきた。
明浦路司
ルクス東山FSCのコーチをしています、明浦路司です!
高峰瞳
同じく高峰瞳です。

鴗鳥慎一郎
名港ウィンドウFSCのコーチである鴗鳥慎一郎です。
雉多輝也
アシスタントコーチやってます、雉多輝也っす。
草部 春一(コーチ)
どうも、スプリングFSCのコーチやってます、草部春一です。


コーチ軍が挨拶をしている中、私達は少しジャンプの練習をしていた。


                                  シャアッ!!


八木夕凪
あの選手、4回転フリップ跳んでたね。
狼嵜光
確か、世界大会で優勝してた垣根和美さんだね。
鴗鳥理凰
すご……。
結束いのり
ね!

あなた
あそこの子達、みんな中学生だっけ。
谷地 麗華(れいか)
草部コーチは、そう言ってたと思います。


結束いのり
あれ、あの二人って……!
八木夕凪
谷地選手と北選手だ……世界大会、テレビで見た。
狼嵜光
北あなたさん……。



草部 蓮太郎(れんたろう)
あなた、あそこら辺で見てる中学生に、ジャンプ見せてあげてよ。
あなた
うん、そうしようかな。



私は助走をつけて、勢いよくスケーティングをする。


明浦路司
スケーティング上手いですね。北選手。
高峰瞳
そうね……。




                 5回転ルッツ+4回転サルコウ!



シャアッ!





明浦路司
5回転?!?!見間違えじゃないよね?!
高峰瞳
しかもルッツ……!
鴗鳥慎一郎
……。


先制パンチ成功。

スプリングFSCのスケートリンクで練習するということは、この高難度のジャンプを当たり前に成功させることが求められるんだよ、中学生。



一条 一稀(いつき)
くそ負けねぇ!




一条 一稀(いつき)
(4回転ルッツ+3回転アクセル)


シャア!



あなた
やるやん。
一条 一稀(いつき)
チッ




舌打ちせんでもええやん、とは思ったけど……まあ、一稀がいつも通りで安心はしたかな。


垣根 和美(かずみ)
あ、そうだ。私、ゴールデンウィーク中の練習ほとんど来れないんよね。
飯泉 百恵(ももえ)【姉】
え、そうなの!?
垣根 和美(かずみ)
うん……ちょっと用事があるんだよね〜。
あなた
……和美、
一条 一稀(いつき)
お前それ大丈夫かよ。練習出来ねぇじゃねぇか。


一稀に私の声が遮られてしまった。

垣根 和美(かずみ)
ごめんね!

和美はいつも通り笑っているけど、多分……、



あなた
和美、ちょっと来て!



そう言って私は、和美の手を引っ張って、第5体育館の外に連れ出した。






垣根 和美(かずみ)
……どうしたの、あなた?



まだ5月なのに、私達をジリジリと照らす太陽の下。

蝉が激しく鳴いている。まるでそれぞれの楽器の均衡のとれていないオーケストラのように声が混じりあっている。


あなた
……てつろーさんから聞いたよ。


あなた
持病が悪化してきてるんでしょ。





スっと、蝉の声が止まった。


これは、蝉が一斉に泣き止んだからではない。私たちの世界に完全に入り切ったから、私達二人の耳の中に雑音なんか入ってこないんだ。


垣根 和美(かずみ)
お兄ちゃんから聞いたんだ〜。もー、言わないでって言ったんだけどな〜!


和美は明るくそう笑った。


今から、少し和美の生い立ちを話そうと思う。


和美は、生まれた時から心臓が弱かったらしい。

私が言った”てつろーさん”とは、和美の実の父親の方に引き取られた、和美の生き別れの兄”黒尾鉄朗さん”のことである。

今、和美は母親の旧姓である”垣根”という名字だが、元々は”黒尾”という名字だった。
和美は母親の方に引き取られたが、和美は今、母親と別居している。
それは、母親の実家からの虐待が理由。

元々、和美の両親の離婚の原因は、母親のはたらきもせず家事への無関心の態度に愛想を尽かした父親から別れを切り出したことからだった。

和美の母親の実家は名家であり、”離婚”という見聞を気にした母親の実家は、和美を引き取ろうとする父親から無理やり和美の親権を取った。


その後、和美は母親の実家で暮らしていたが、そこでの親族からの暴力や、心無い言葉により心を病んだ。勿論、母親は無干渉だったらしい。

その時、唯一垣根家で和美の味方だった叔母から勧められたフィギュアスケートにのめり込み、叔母にも協力してもらってフィギュアスケートの世界にのめり込んだらしい。

そして、てつろーさんによると、最近和美の動悸が激しくなってたことが気になり病院に行ったところ、持病が悪化していることが分かったらしい。


その件で、てつろーさんは、和美が東京へ引っ越すことを進めとるようやけど、スケートのことがあるから結局学校の寮に住んどるらしい。



……と、私が知っている和美の生い立ちはここまで。

さあ、本題だ。

あなた
私に、持病が悪化したこと話してくれなかったね。
垣根 和美(かずみ)
だって、言ったらしんみりするでしょ?それに、草部コーチには言っといたから……。
あなた
そうじゃない。


私はキッパリ言った。

あなた
しんみり?そんなことしないよ。和美はしんみりとした空気が1番嫌いって、私は知ってる。

あなた
コーチに言っても、草部コーチは普段の教師としての仕事も担っているから、和美の体調の変化にいつでも気づけるっていう訳じゃないやろ。


あなた
和美の持病を、てつろーさん以外の人で1番早く知ったのは私。


あなた
何で私に言ってくれないの?そんなに私、信頼されてないかな。

垣根 和美(かずみ)
……違うよ。
垣根 和美(かずみ)
”目の前から人が居なくなった”経験が沢山あるからあなただけには、言いたくなかったんだよ。


あなた
……っ。


草部 春一(コーチ)
おーい、そこ2人、何話しとるん?ルクス東山と名港ウィンドウの人達に挨拶すんで!
あなた
垣根 和美(かずみ)
草部コーチ……。あなたに病気のこと話しました。
草部 春一(コーチ)
そうか……あなた、みんなにはまだ、言わんでくれよ。
あなた
分かってます。


私は和美に真剣な目を向けてこう言った。


あなた
私には……ちゃんと体調のこと言うんだよ。


垣根 和美(かずみ)
……うん、ありがとう。


そうして、私たちは第5体育館へと戻って行った。





挨拶を各クラブ同士した後、3クラブ合同のペアを決めて練習することになった。

ちなみに、ペア決めの後はすぐに私達の歓迎のアイスダンスが行われる。



草部 春一(コーチ)
出来るだけ、性格の合う合わないと、自分らがよく使う曲の雰囲気、もし余裕があれば得意なジャンプでもペアを決めてくれ。

明浦路司
サルコウが得意な人いるかな?
結束いのり
ドキドキします……!
明浦路司
折角だから、スプリングFSCの人達とペアを組もう、いのりさん。
結束いのり
はい!


結束いのり
あ、あの!
あなた
……はい?
結束いのり
あの、サルコウジャンプって得意ですか?!
あなた
ごめん、私得意なジャンプ、アクセルなんや。
結束いのり
アクセルが得意?!す、すごい!
明浦路司
あの……スプリングFSCの人の中でサルコウジャンプが得意な人いませんか?
あなた
和美か蓮太郎ですね。
あなた
ちなみに、4回転を飛べるのは和美の方です。でも、和美はゴールデンウィーク中はあまり活動に来ないので、蓮太郎ともペアを組むことも考えてええと思います。
明浦路司
4回転……分かりました!丁寧にありがとうございます!


そう言って、明るいコーチと選手は元気よく去っていった。


鴗鳥慎一郎
あ、あの……。
あなた
えっ、あ、はい?



びっくりした、オリンピック銀メダリストなのに、この人本当謙虚だからオーラが気づきにくい。

鴗鳥慎一郎
私の息子と組んで頂けないでしょうか。
鴗鳥慎一郎
私の息子の得意ジャンプが2回転アクセルなんです。
鴗鳥理凰
……どうも。


2回転アクセルか。

まあ、ちょっとペアとして狙ってた狼嵜光ちゃんは、得意技が私のジュニア時代の課題だったルッツだって言ってたからペアにはならないだろうとは思ってたけど、正直狼嵜光ちゃんと練習したかったな。

狼嵜光
あの、先程のルッツ、凄く綺麗でした!私と組んでくださりませんか?
一条 一稀(いつき)
あ?……まあいいけど。

なるほど、ルッツ得意同士で組んだな。


あなた
ええですよ。鴗鳥理凰君だっけ。よろしく。私、北あなた。
鴗鳥理凰
よろしくお願いします!

そう言って理凰君は、笑顔で深々と頭を下げた。

私は理凰君と目線を合わせるために、膝を曲げて体制を低くした。
あなた
3回転アクセル跳びたくない?
鴗鳥理凰
え、3回転……。
あなた
せっかくだし、このゴールデンウィーク中に跳べるようになろうよ。
鴗鳥理凰
やりたいです!!
鴗鳥慎一郎
いいんですか?
あなた
ええ、この子の飲み込みしだいで4回転も教えちゃおうかな……。
鴗鳥慎一郎
鴗鳥慎一郎
お願いします。
あなた
あの、そんなに頭下げなくても……あああ、前屈みたいになってますよ鴗鳥さん。


私はこの人と接してみて、腰が低すぎるのも悩む所だな、と思った。


ちなみに、ペアは

私と鴗鳥理凰君。(和美が居ない時は、途中からいのりちゃんも参加)

一稀と狼嵜光ちゃん。

和美と結束いのりちゃん。

佳奈と八木夕凪ちゃん。

百恵と蓮太郎。

となった。

そして、次は一大イベント、アイスダンスだ。


アイスダンス、何度も練習したから、絶対成功させよう。そう意気込んだ私だった。



プリ小説オーディオドラマ