第4話

2章後編 本当にやりたかったことは
22
2024/01/28 01:48 更新
リーヴは表情を変えないまま少し間を置いて、笑顔を作ってから話し始める。
リーヴ
リーヴ
ねぇ、フィル君。君がメイちゃんを助けたいっていう気持ちはすごく伝わったよ。
フィル
それなら…!
リーヴ
リーヴ
でもね、回復魔法を覚えるってどういうことか分かる?
フィル
えっと…?
人のことは言えないがフィルが明らかに困ってるの分かるだろ…?どうしたんだ…
フォンセ
フォンセ
リーヴ。お前も1回落ち着け
しかし、リーヴは表情一つ変えずに続ける。
リーヴ
リーヴ
回復魔法ってね、強いの。1回覚えてしまえば、その魔法でできる範囲の傷であれば何回だって治せる。
リーヴ
リーヴ
けど、この魔法は万能じゃない。原因を治せるわけじゃない。一時的なものなの。
リーヴ
リーヴ
何回体調を崩しても魔法で全て治してくれるって思ったら、使われた側は安心して無理をしてしまう。そしたら原因の部分はさらに悪化する。
そうしたら本人もを知らず知らずのうちに原因が悪化して、結局魔法使う前より完治が難しくなるってことか。

確かに思い返してみると、彼女は回復魔法を使えるはずなのに前に行った村でも看病の指導を行って薬を出すだけだった。
地道に治すことでもっと自分の身体を大事にしてもらいたいという思いの現れだったのかもしれない。
リーヴ
リーヴ
フィル君、それでも回復魔法を使いたいの?
フィル
……
フィル
…覚えたいです。
フィル
このまま、メイちゃんを放っておけないんです。倒れてもみんな無視したまま、誰も助けてくれないのは辛いと思うんです。
フィル
そういう僕も、今まで何も出来てなかったですけど…今回は、なにかしてあげたいんです。
フォンセ
フォンセ
フィル…
地味で大人しい感じのやつなのに、この時は眩しく見えた。
リーヴ
リーヴ
そうなんだね、わかった。じゃあ約束
リーヴ
リーヴ
今回の1回を使ったあとは、本当に危ない時しか使わないんだよ。絶対ね。
フィル
はい、わかりました。よろしくお願いします
そうして、フィルの回復魔法の特訓が始まった。
リーヴ
リーヴ
……で、治したい相手の額に手を当ててね。こうだよ
フィル
こう…ですね?
2人が魔法特訓用の人形に手を当てているのを、私は椅子に座ってただじっと見ている。
リーヴ
リーヴ
次に精神を集中させて、相手の回復を祈りながら詠唱するよ。
«治癒サナーレ»
フィル
よし…!!サノー…
フィル
噛みました…
リーヴ
リーヴ
大丈夫!もう1回やろっか!
額に汗が伝う。
あの簡単な呪文で噛むとか大丈夫だろうか…

フィル
サナーレ!
リーヴ
リーヴ
よし!その後額に手を当てたままさっきの数列をイメージしてね。そのあと自分の思いを全部相手に吸い込ませるイメージで祈るよ。
フィル
…はい!できました!
リーヴ
リーヴ
手を話した時に、いつもと違うじんわりとした温かさがあれば成功だよ
フィル
手、冷たいです…
さっきから何回も挑戦しているが、ずっと失敗している。明らかに顔にも疲労の色が見え始めていた。
フィル
やっぱり、僕に魔法なんて無理なんでしょうか…
リーヴ
リーヴ
一旦休憩しよっか。疲れたよね、よく頑張ってるよ。はい、これ
彼女が差し出したものはクッキーだった。
フィル
クッキー…
フィルはなにか思い出に浸っているようにクッキーを見つめる。
リーヴ
リーヴ
どうしたの?
フィル
メイちゃん、魔法実習で僕が上手くいかなくて落ち込んでた時、これ食べて元気だしてって、クッキーをくれたことがあったんです。思い出しちゃって
フォンセ
フォンセ
優しいやつ、なんだな
フィル
そうなんです。
…頑張らなきゃな
リーヴ
リーヴ
元気なさそうだったからよかった!一緒に頑張ろうね!

そうして、来る日も来る日も
放課後に来ては、特訓を続けた。
フィル
…で、手を離して…
フィル
熱い、です…!
リーヴ
リーヴ
本当!?わー!!やったねー!
よく頑張った!!
フィル
じゃあ、メイちゃんに…!
リーヴ
リーヴ
そうだね、早く行こう!


メイはかれこれ1週間も眠ったままだった。
けれど、私達以外誰も見舞いになんか来なかった。

相変わらず酷く顔色が悪い。保健室の人によると、点滴をはしたがこのままでは日に日に痩せ細っていってしまうだろうということだった。
リーヴ
リーヴ
じゃあ、頑張って…!
フィル
はい…!
自然に、自分の手を握っていた。
ただ見ていることしかできないけど、それでも、成功することを願っていた。

フィルは、メイの額にそっと手を触れ、呟く。
フィル
«治癒サナーレ»
その瞬間、ふわっと辺りが明るくなる。
だんだんと、フィルの魔力がメイに吸い込まれていき、彼女の顔は血色を取り戻していく。
その光景は、星を散りばめたようにキラキラと輝いていた。

よっぽど疲れたのだろう。彼は、ゆっくりと額から手を離した後、膝から崩れ落ちる。
フィル
成功、したんですよね…?
リーヴ
リーヴ
成功してるよー!おめでとう、本当によかった…!!お疲れ様…!!
フィル
よかった…!ありがとうございます!
リーヴ
リーヴ
フォンセさんもありがとうございました!でもおめでとうの一言ぐらい…って、フォンセさん?
そう言われて、何か言おうと思った。
けど言葉が、いや、声が上手く出せなかった。
ただ、何かが頬を伝うのだけがわかった。
リーヴ
リーヴ
泣いてるんですか…?
そう言われてハッとした。泣いてたんだ、私。
なんで泣いたのか自分でも分からなくて、止めようと思ってもどうにもすることもできなかった。
フィル
…お2人とも、本当にありがとうございました。この後はどうすればいいんでしょうか
リーヴ
リーヴ
数分したら目を覚ますはずだから、そのままいてあげて。私達はまた別のところに行くから、もう帰るね
フィル
わかりました。お気をつけて!
私達は保健室を出て、ドアを閉める。
そのまま学校を出て、適当なところにテントを張って、すぐ寝てしまった。
朝。いつも通りうるさい鳥の声と彼女の声。テントから引きずり出され、また次の街に向かって歩みを進めていく。
フォンセ
フォンセ
なぁリーヴ、前の街の時から不思議だったんだ。
どんな高価なものを貰っても嬉しくなくて、どんな街を焼いても悲しくなんてなかった。
フォンセ
フォンセ
そんな私が、子供達やフィルが喜んだだけで嬉しくなった。不安にさせた時、申し訳なく思った。
フォンセ
フォンセ
考えたんだ。私は、黒ずんだ世界を壊したかったんじゃなく、黒ずんでない世界を見たかっただけなのかもしれないな。
リーヴ
リーヴ
そうなんですか。それで?
フォンセ
フォンセ
だから、これからもそんな世界を見るために、旅について行かせてくれ
リーヴ
リーヴ
ふふ、当たり前です。嫌と行っても無理矢理連れていきますから
次の街に行く時、あの学校の前を1度だけ通った。
もうあんな場所には二度と行きたくない。登校途中の生徒達が話す陰口がいやに大きく聞こえた。

そんな中、手を繋いでいる2人が見えた。前を歩いているのが昨日まで見ていたあの大人しい少年だとは思えないほどたくましく見えた。その力強い足取りを見るに、これから教師達に訴えにでも行くのだろう。こんな場所が変わるかは分からないが、少なくとも2人はきっと良い方向に進んでいけるだろう。
フォンセ
フォンセ
そういやリーヴ、なんで回復魔法を使いたくないっていうのに回復魔法を覚えてるんだ?
リーヴ
リーヴ
…私も昔は回復魔法を使えばみんな助けられると思って覚えてました。けどそのせいで大切な人を失った。ただそれだけです
リーヴ
リーヴ
…ってそんなことより!次は港町ですよ。伝染病が流行ってるらしくて。薬は持ってますし予防法も学んだので大丈夫ですから早く行きますよ!
フォンセ
フォンセ
わかったわかった、だから急に走るな!!
そうして私達は港町に向かうことになった。
リーヴはまだ謎だらけだが、まあいい。
残り1ヶ月もないが、綺麗な世界を見るために、
私はまた1歩歩いた。

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