第11話

story.10【最終回】
129
2025/05/08 00:31 更新
雲が月を断ち、微かな光が差す夜、杖をついた老婆が独り喫茶店に入っていく。
カランカラン…
老婆
開いてるかしら?
店主
おや、こんばんは。
こちらのカウンターへどうぞ。
老婆
よいしょっ、と
店主
…何を飲まれますか?
老婆
…カフェモカをくれるかしら?
店主
承知しました。
老婆
…にしても良い香りねぇ。
何か香でも炊いていらして?
店主
あぁ、あそこに。
店主
ラベンダーを生けてあります。
老婆
素敵な花ねぇ。
店主
花言葉は、
【あなたを待っている】
店主
なんですよ。
老婆
へぇ、面白いわねぇ。
店主
えぇ。本当に。美しい花です。
店主
六月中旬頃に早咲が咲き始め、七月中旬から下旬にかけて見頃を迎えます。
ラベンダーにはリラックス、リフレッシュ効果があります。
店主
他にも、抗菌効果や、安眠効果があるとされています。
老婆
へぇ。あなた、なかなかお詳しいこと。
店主
いえいえ、滅相もない。
老婆
ラベンダーがあるから、こんなにも落ち着くのねぇ。
店主
えぇ。きっとそうでしょう。





















暫く沈黙が訪れる。
この店主さん、どこかで見た事がある、あるはずなのに思い出せない。
その記憶だけ、真っ黒のクレヨンに塗りつぶされてしまっているようだ。
カチャ
店主
カフェモカです。
老婆
えぇ。ありがとうねぇ。
老婆
…私ねぇ、若い頃は良く友達と一緒にこう言う喫茶店で女子会してたのよねぇ。
店主
ほう。
老婆
かっこつけで、良くカフェモカを頼んでいたのよ。
店主
へぇ。
老婆
私の初恋の人の好きな飲み物がカフェモカでねぇ。
良く飲んでいたの。
店主
その方は、どんな人なんですか?
老婆
明るくて、頭が良くて、でもちょっとおっちょこちょいでねぇ。
あの人の第二の母親になった気分だったわ。
店主
ほぅ。
老婆
あの人はねぇ、小学生の時からずっと一緒でねぇ、将来はお店を出すなんて言ってたわ。
店主
左様ですか。
老婆
名前は確か…
【俊一】
老婆
って言うのよ。
かっこいいわよねぇ。
店主
…ほう。
店主
お母様。ここの店の名前、ご存知ですか?
老婆
…そういえば知らないわね。
なんて言うの?



















































店主
キンモクセイです。
老婆
へぇ。何か由来とか、ありまして?
店主
それは今教えるのは勿体ありませんから、自分で調べてみてください。
たった二人の、他愛もない会話だけが、静かに喫茶店に響いた。
…続いてのニュースです。
先日から行方不明になっていた帆上弥生さん(72)が、遺体で見つかりました。
付近に落ちていた遺書には、

『俊一さんに会いたい
今そっちに行くから待っててね』

と書かれていたそうです。
これで深緑樹海行方不明事件の被害者は十一人目となりました。
警察は現在も調査を進めています。…
全ての伏線と意味は次回。

プリ小説オーディオドラマ