僕には、彼氏がいる。
運動神経抜群で、頭も良くて、顔も整っていて、その上とても優しい。
まるで少女漫画や青春ドラマの中から飛び出してきたような——そんな完璧な人だ。
明るい笑顔で誰とでも打ち解けて、
成績は常に上位、体育祭ではリレーのアンカー。
クラスでも学年でも名前を知らない人なんていないくらい人気者で、
先生にさえ一目置かれていた。
そんな彼が、僕の隣にいる。
手を繋いでくれる。笑いかけてくれる。
夢みたいな話だけど、本当なんだ。
それに比べて僕は、ずっと「いないもの」として扱われてきた。
小学校の頃から、僕はクラスの空気のような存在だった。
誰とも目を合わせられず、会話も弾まない。
休み時間は一人で図書室に逃げて、
教室の隅で息を殺して、ただ誰にも触れられないようにしていた。
最初は無視されるだけだった。
でもだんだんと、無視から“いじめ”に変わっていった。
ランドセルを蹴られ、椅子を引かれ、
教科書のページを破られ、絵を描けばバカにされた。
僕の名前は、誰の口からも呼ばれることはなかった。
「お前」とすら言ってもらえず、
「ゴミ」「影」「生きてる意味あるの?」
そんな言葉だけが、容赦なく投げつけられた。
中学に入っても、それは変わらなかった。
いや、むしろ悪化したかもしれない。
僕の机には毎朝、悪意のある落書きが増えていった。
黒いマジックで書かれた「キモい」「死ね」
勝手に教科書が捨てられ、
給食は手をつける前に横から奪われる。
返してと声を上げれば、「うるさいんだよ」と殴られる。
僕は、それでもただ笑ってごまかすしかなかった。
何を言っても、余計に嫌われるだけだったから。
教室では常に“誰の隣にもなれない存在”だった。
席替えのたびに、「えー、隣こいつかよ」と聞こえた。
僕の手に触れただけで、みんなが服を払った。
あたかも、何か汚い菌でも触れたかのように。
時々、トイレの個室で静かに泣いた。
誰にも聞こえないように、声を殺して。
鏡に映る自分の顔が怖くて、
次第にその存在すら、鏡の中から消えてしまえばいいと思った。
でも、それでも僕は、耐えた。
朝が来ればまた教室へ行き、
何もなかったように笑って席に座った。
心が壊れないように、頭の中で何度も呟いていた。
「大丈夫。いつか、誰かが気づいてくれる。
こんな僕でも、ちゃんと見てくれる人が現れるはずだ——」
……その希望だけが、僕をかろうじて繋ぎとめていた。
だって、そうじゃないと、
何のために生きてるのかわからなくなってしまうから。
僕はずっと、“誰かに認められる日”を夢見ていた。
ただ、手を差し伸べてくれる誰かを、待っていた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。