「気をつけてね」
「あぁ、行ってくる」
出発時刻になり、計画通りにホブスやドム、ブライアンが工場から出ていく。
ハンも警官に扮してパトカーに乗り込むと、何も知らないミアがクォンに駆け寄る。
「クォン、起きてきて平気なの?」
「ミアさん、大丈夫です。皆を見送ったら戻ります」
無理しないで、と微笑むミアに笑ったクォンは、ジゼルとテズがウインクをして車に乗り込むのを確認し、寝床に戻るフリをしてスープラに乗り込む。
工場の裏口の扉を開放しており、テズとジゼルが出発する車と同タイミングで出発する。
エンジン音でスープラが出たのをミアに気付かれないためだ。
エンジン音が工場内に響き渡り、合わせてクォンもエンジンをかけて出発する。
ドムとブライアンたちが追い込まれたように見せかけるため、クォンが考えた作戦にはまだ充分時間があるが、何が起こるか分からないため、橋へ繋がる手前にある交差点の路肩で待機することにした。
10分も経たずに待機場所に着いたクォンは、無線のスイッチを入れた。
《計画は上手くいってるわ、後から汚職警官が追ってきてる。捕まらないでね》
ミアがドムとブライアンを誘導している声が聞こえてきた。
クォンはそのまま聞き続け、戦況を見守る。
《そこしかない、曲がれ!》
《何?ついでに銀行強盗でもしたの?》
《後ろから何台も来てるわ。なんとか妨害して》
《左は始末した》
ハンの声が聞こえた瞬間、クォンは安堵する。
パトカーの中身がニセ警官だとバレないように身を潜めていただけなのだが。
《礼を言うぞ》
《いいって》
《追跡車両とは10秒の差ができた。ここが勝負よ》
ミアの言葉を聞いたクォンの視線の先を、レイエスの金庫を引っ張るドムとブライアンの車が通過していく。
路肩に停めていたスープラのエンジンをかけると同時に、レイエスが乗った車両がスープラを追い越していく。
「……見てろよ」
すぐにでもバーストさせたい気持ちを抑え、クォンは一般車を装ってレイエスの車の50m後方へピタリとつける。
あとは、タイミングを図って計画を実行するだけだ。
橋を渡るブライアンが無線を通じて焦りの声が聞こえる。
《クソ、数が多すぎる。これじゃ俺たちでは逃げ切れない!》
《俺たちでは無理だ。お前だけ行け》
ドムがブライアンを促す。
クォンはさらにスープラのスピードを上げる。計画よりもドムの判断が速く、パトカーの前に出られるか微妙な賭けになる。
クォンは無線に手を伸ばし、3人に声をかけるタイミングを図る。
《何を言ってるんだ》
《金庫を捨てて逃げてちょうだい》
《お前は父親になる身だ》
《バカ言うな。計画通りやれ!》
《これで計画通りだ。ミアを頼むぞ》
《兄さんお願いだから今すぐ金庫を切り離して逃げて》
《2人ともそのまま走って!》
「「「!?」」」
スピードが出ている中で正面衝突でもすれば大惨事。
それを承知で、クォンは今回の計画を立てた。
絶対に、自分が死なない自信を持って。
スープラは1台のパトカーの正面から突っ込んでいく。
パトカーの助手席から身を乗り出してショットガンを向ける警官を見たクォンは、得意気にサイドブレーキを引いてスープラを助手席側から横滑りさせた。
「!?」
それは監視カメラを欺いた時に見せたドライブテクニックとほぼ同じだった。
今回のスープラは装甲車のフレームを残して、また再度、監視カメラを欺いた時のタイヤ周りとスピードに差し替えた改造。
ゆえに、装甲車並みの硬さを持ち、かつかなりのスピードを保ったままドリフトしてきたスープラにパトカーが反応できるわけもなく、スープラのリアバンパーがパトカーのバンパーからボンネットへ強烈なフックを叩き込んだ。
「…1台目」












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!