第3話

【Smoky】>>>3
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2020/05/18 03:40
「ヒョン。」

"もう朝が来ちゃった"と言うとヒョンは窓の方を向いて"おう"とだけ呟いた。

あの晩から朝まで、俺とヒョンはずっと一緒に居て、打ち解けるのには時間が掛からなかったようだ。
今までに友達なんて出来なかった俺だから、本当に不思議で、本当に嬉しい。
ずっと独りだと思ってたけど、ヒョンも同じ思いをしていた人なんだと知って、なんだか心強くなった。

「学校…」
「あ?」
「行かなきゃ…」
「あぁ。そうか。コンビニで朝飯買って、行くか?」
「うん、そうしよう。」

誰かと学校に行く。
ヒョンと出会って本当の新しい生活が始まった気がした。

「え、ヒョンって甘いのが好きなの?」
「あ、おう。そうだよ。」

いちごクリームの入ったサンドイッチを両手に持ったヒョンは、"俗に言う甘党ってやつ"そう言って俺を見た。
その時のヒョンの顔は少し嬉しそうだった。
ヒョンって笑窪があるんだ…。
毎日バイクに股がって、時には大勢と喧嘩をして、返り血を浴びて帰ってくる所も見た事があったけど、
その笑窪は、ヒョンにしか似合わない気がした。

「おい、選べよ。」

ヒョンが俺の肩をサンドイッチで突いて言った。

「いや、俺、お金持ってないから…」

俺がそう答えると、ヒョンは溜息をついた。

「ごめんなさ…」
「早く選べって。俺が買うからって事だよ。」
「…え?」

ヒョンは少し呆れたように俺を叱った。

「いいから。遅刻するぞ?」
「いい、の?ホント?!ありがとう!!」
「いや、そんな喜ばなくてもいいよ…」

そうやってはしゃぐ俺を見てヒョンは言うけど、本当に嬉しい。こんな事があっていいのかってくらいに。

遅刻するぞ?とは言われたものの、僕達が外を出たのは浅い朝だったため、学校へ行くまでの時間は余っていた。コンビニの外の駐車場にヒョンはドシっと、俺はちょこんと座って、朝ご飯を食べた。

「もっと別のもんでも買ってやったのに。」

サンドイッチと僕の朝ご飯を見比べながらヒョンは言う。
俺が選んだ朝ご飯は塩おにぎり1つ。

「ううん、俺、毎朝これなんだ。なんだかんだ言って好きなんだよ、塩おにぎり。美味しい。」
「ふ〜ん」

関心が無さそうな声を出した瞬間に、目をキラキラさせながらサンドイッチに頬張るヒョン。

「……ぷッ…笑」
「っ、ん?なんだよ。どした?」
「いや、クッ、なんもないっ、ぷはッ…www」
「?変な奴だなぁ…」

ヒョンは知らなくていいの。
食べてる顔が一生懸命過ぎて、ブサイクになっちゃってる事なんて。




「よし。行くか。」

お互い朝食を食べ終えて、学校に脚を運んだ。
コンビニの前で時間を潰した為、いつもと同じ時間帯にいつもと同じ道で登校することが出来た。
けれど違う所が1つ。
道行く同級生の人たちが、俺とヒョンに道を作るようにして避けて歩いている。
いつもならあの二人に絡まれて嫌がらせをされたりしたけど、今日は何もして来なかった。

「……ヒョン、すごいね」
「なんでだよ?」
「皆避けてっちゃう…」

そう言うとヒョンは少し寂しそうな顔をした。



「んじゃ、また帰りにな。」

ヒョンと俺は離れて、各自教室に入る。
ヒョンと帰れる。そう思うと、1日頑張れる気がした。

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「今日、ヒョンと帰れると思ったら頑張れた気がする。」

朝から思っていた事を話したのはあの日の公園。
この公園はこの先、俺たちがお世話になることになる。

「へぇ、そうだったのか。アイツらは?」
「アイツら?…あぁ、2人の事ね。何もしてこなかった。」

ヒョンが助けに来てくれた日からあの2人は乱暴もしてこなければ俺と目を合わせる事もしてこなかった。

「そか…。」
「ヒョンのお陰だよ。今日がとても暮らしやすかった。」

少しびっくりした様子を見せて“ならよかった”と呟くヒョンは雲行きを見つめてポケットから出した煙草に火をつけて吸う。その横顔は夕日に照らされて綺麗。そしてどこか嬉しそう。

「ヒョンって鼻高いんだね。」
「え?」
「いや、昨日は俺泣き過ぎてヒョンの顔まともに見てなかったからさ。それも暗がりだったし…」
「あぁ。確かに。つか、チャンギュナのが高ぇだろ。」
「俺のは大きいだけ。」
「はいは〜い。」
「なにそれ!」
「んはは、怒んなってwそろそろ行くか。」
「うん…」

ヒョンは煙草を1本吸い終わると帰りの合図を出した。
楽しかったなぁ。

「じゃ、ありがとう。またね。」

そうヒョンに伝えて家のドアを開けようとした時。

「なぁ、お前嫌なんだろ?」
「…え?」
「親父さんと同じ家に帰んの。」

正直に言うと出来ることなら永遠にあの公園に居たかった。

「……でも仕方ないから。ありがとう。」

そう言って、俺が家に入ろうとするとヒョンに腕を掴まれた。

「お前、今日から俺ん家住めよ。」

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