ボーダー本部の訓練場、訓練中の狙撃による風と振動が俺の髪を揺らした。そんな中いつも通り軽口を叩き、狙撃手の仲間たちの笑い声に応えていた。だが、心の奥では、忘れられない誰かの存在が静かに揺れている。
「賢、大丈夫?」
事情を知る同じチームの時枝こととっきーは、そんな俺を気にかけ狙撃手の訓練に付き添ってくれていた。
「ねぇ、とっきー…ちょっとだけさ、俺の思い出話聞いてくれる?」
「…もちろん」
とっきーは優しくふっと微笑んだ
あの日のことを思い出す。
訓練中、ふざけて転んだ俺に、3歳年上の彼女は突然現れ真剣な眼差しで手を差し伸べた。
「大丈夫?」
その声はいつもと同じ温かさで、でもどこか特別な響きがあった。軽口ばかり言っていた俺の心は、思わず一瞬止まった。
彼女は俺の手を握り、そのまま軽く微笑む。
あの一瞬、俺は世界が止まったような気がした。
それがきっかけで俺はその人に片想いをし始めた。
彼女は嵐山さんと同い年で、臨時の戦闘員として本部に所属してて、みかんが好きで、俺のことを可愛がってくれる人だった。
「俺を見つめてくれた目とか、元気でねって言ってくれた声とか、全部、ぜーーんぶ、1つも残さず俺にとっては美しかったんだ」
その思い出は今も胸の奥で色褪せず、心の光になっている。
もう一つ、胸を締めつける記憶があった。
大規模な戦闘でで予想外の危機に巻き込まれた時、彼女は涙を浮かべながら必死に平静を装い、「気をつけてね」と声をかけてくれた。
俺は全力で状況を切り抜けようとするが、守れなかった瞬間もあった。
その時の彼女の声や、涙を堪えた表情が、俺の胸に深く刻まれている。
「俺に見せてくれた涙まで先輩と分かち合っていた瞬間は、全て過ぎちゃったけどね…先輩はとても美しかったんだ」
1回だけ届いた思い
すべてが今も胸を締め付ける。
“これ私にくれるの…?ありがとう、賢”
“私も好きだよ”
“賢はやっぱりヒーローだね”
もうあの人の声を直接聴けることはないだろう。
彼女に別れを告げられてから約3ヶ月。
まだ1度も彼女が待機している作戦室の近くを通れない。
「ねぇ、とっきーはどう思う?」
「未練がある男ってダサいかな」
俺の目をしっかり見ながら話を聞いてくれていたとっきーは、一瞬視線を手元に落とし、再度こちらに視線を向けた。
「未練があるっていうのは、好きな人との別れに納得がいかないからでしょ。それをダサいなんて思わないよ」
訓練の終わり、仲間たちの声や足音が遠くに聞こえても、俺の心は過去の二つの瞬間に囚われている。
軽口を叩く俺を知る者は、こんな表情に気づくはずもない。
だが、俺は知っている。あの眼差し、あの声、あの涙すべてが色褪せず、今も鮮やかに生きていることを。
帰り道、夕焼けに染まる街をチームメイトと歩きながら、ふと立ち止まり、空を見上げた。
心の奥で、二つの思い出をそっと抱きしめる。
軽口を言えない静かな時間の中で、自然に口を開いた。
「好きだよ先輩
貴方は、とっても美しかった。」
風が吹き抜け、遠くの笑い声が消えても、その思い出は俺の胸に、永遠に残ったままだ。
曲パロ
【You were beautiful___DAY6】
ふと和訳を見たら佐鳥しか思い浮かばなかったです。
こちらもリクエストを受けたいと思います。
曲名➕キャラクター名でコメントお願いします












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!