第8話

【第七章】偽りの演者
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2025/07/02 05:25 更新
それはほんの偶然の出来事だった。

放課後の昇降口で、誰かの落としたスマートフォンを拾った。
画面が割れ、保護シールの端に血のような赤い染み。
私は何気なく電源をつけた。

そこに映っていたのは、録画中の映像。

──暗闇に揺れる視点、かすれた声、手振れ。だが、そこには確かに記録されていた。
江藤舞が倒れている姿。

『……あれ? まだ誰も来てないの?』

『……ねえ、どこ? 誰かいるの──』

声が止まり、映像はプツリと切れる。

録画時刻は、江藤の発見前。
つまり、彼女は「誰か」に呼ばれ、教室に向かっていた。

この端末の持ち主は誰なのか。私は背筋に冷たいものを感じながら、本体の裏を見る。

──佐藤夏樹。

私は、信じたかった。
彼だけは違う。私の理解者、共犯者。
でも、現実は違った。

机に伏せた彼を見つけたのは、その日の午後だった。
瞳孔は開き、口元には微かな血の線。

その手には、もう一枚の紙が握られていた。

『君が劇の主役だと思ってた? それは大きな誤解だよ。』

そこには──私の知らない筆跡。

私は震える指で夏樹のスマホを開き、もう一度映像を再生した。

──奥の暗がり。
そこに、もう一つの“目”があった。

録画されていたその背後から、別のレンズが光っていたのだ。

“劇”は、見られていた。

しかもそれは、私の知らない“観客”によって。

彼は演者ではなかった。
観測者でもなかった。

夏樹は──囮だった。

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