それはほんの偶然の出来事だった。
放課後の昇降口で、誰かの落としたスマートフォンを拾った。
画面が割れ、保護シールの端に血のような赤い染み。
私は何気なく電源をつけた。
そこに映っていたのは、録画中の映像。
──暗闇に揺れる視点、かすれた声、手振れ。だが、そこには確かに記録されていた。
江藤舞が倒れている姿。
『……あれ? まだ誰も来てないの?』
『……ねえ、どこ? 誰かいるの──』
声が止まり、映像はプツリと切れる。
録画時刻は、江藤の発見前。
つまり、彼女は「誰か」に呼ばれ、教室に向かっていた。
この端末の持ち主は誰なのか。私は背筋に冷たいものを感じながら、本体の裏を見る。
──佐藤夏樹。
私は、信じたかった。
彼だけは違う。私の理解者、共犯者。
でも、現実は違った。
机に伏せた彼を見つけたのは、その日の午後だった。
瞳孔は開き、口元には微かな血の線。
その手には、もう一枚の紙が握られていた。
『君が劇の主役だと思ってた? それは大きな誤解だよ。』
そこには──私の知らない筆跡。
私は震える指で夏樹のスマホを開き、もう一度映像を再生した。
──奥の暗がり。
そこに、もう一つの“目”があった。
録画されていたその背後から、別のレンズが光っていたのだ。
“劇”は、見られていた。
しかもそれは、私の知らない“観客”によって。
彼は演者ではなかった。
観測者でもなかった。
夏樹は──囮だった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!