第20話

少女の決断
10
2023/12/01 16:17




「あなたのあだなー!どこにいんのっ?」




噴水広場に全力疾走したから疲れて膝に手を付いて周りを見渡した。真夜中にジェージェーに叩き起こされて正直めちゃくちゃ眠いんだよこのやろぉ!!って怒りたかったけど、そうもいかない事態だった。手術が終わってずっと目を覚まさなかったあなたのあだなが居なくなってたんだもん。




「まじで…っ…、どこにいんだってのっ…」




呼吸が整わない。一旦病院に戻ろうかな。他の連中が見つけてくれてるかもしんないし。まっすぐに立って深呼吸をしてから踵を返そうとしたときだった。




「…ノーマちゃん?」

「…っ!」




あなたのあだなが広場の階段を登ったとこに立ってた。いかにも今来ましたって感じで。いや、実際そうなんだろうけど。




「何考えてんのさっ!勝手に抜け出して!傷口開いたらどうすんの!」

「…そうだね。けど私なんかがなんでこうして生きてるのかな?」



…え。何でそんな事いうわけ。みんな必死になってあなたのあだなを助けに行ったのに。…あなたのあだなは死んでも良かったっていうの?どうして…どうして……。



「どうして…そんな顔してんのよっ…!」

「ノーマちゃん?」

「そんな死んでも良いみたいな顔すんなぁ!!わぁーん!」



堪らず涙が次から次へと溢れてきて、手で拭っても拭っても止まらない。




「あたしら友達じゃんっ…親友じゃん!」

「…」

「どんだけ心配したと思ってんの!バガアアア!」




呂律も回らなくなってわんわん泣いてたらあなたのあだなが自分のハンカチだろう物であたしの涙を拭き取って頭をなでてくれた。あれ?なんであたしがあやされてんの。


「ノーマちゃん、落ち着いて。ごめんね、あんな事言って」




もうやだ。この馬鹿、めちゃくちゃ良い子だ。でもやっぱり無理してるのは良く分かった。だって全然目を合わせてくれないし、その目でさえどこ見てんのか解かんない。

思いっきり泣きたいのはあたしなんかより、こうして壊れちゃいそうに笑ってるあなたのあだなの方だ。

泣き止まなきゃ。そう思って目をごしごし擦るようにして涙を拭き取った。けどそれでも止まんないよ…。



「ノーマちゃん」

「ごめ、…~~あーもう止まれっての!」

「ねぇ、聞いてくれるかな?私ね…、……―」



あなたのあだなは躊躇うみたいに言葉を続けなかった。ひっくひっくと泣きながらも黙って待ってみることにした。どれくらい待ったかな?1分くらいかな。あなたのあだなは苦い顔をしながら俯いて小さく口を開けた。



「大陸に戻るよ。私」

「は?…どして、」

「もういいんだ。父様の事も色々知れたし、ここに居てもする事ないし。…でも戻る前にお参りする」



父様とフィーネのね。って言って仕方なさそうに言ったもんだから、あれだけ止まらなかった涙かぴたっと止まった。



「すること無いって…。あたしらが居るじゃん。それにさっ、大陸に戻って何すんの?」

「大陸には生まれた時から過ごしてきた屋敷があるし、元の生活に戻るだけだよ」

「…戻ってお嬢様するわけだ。男子禁制の屋敷で」

「ううん、もう男子禁制じゃない。父様はもう居ないんだから」




そんなこと言われたって納得できない。けど確かにそれで正解なのかもしれない。こっちで宿屋暮らしなんてあたしじゃあるまいし…。



「ジェージェーは?好きじゃなかったわけ?」

「…、…」



何も言えなくなったのか口を噤んだ。そして何かを諦めたようにニッコリ笑って言ったんだ。



「私、大陸に戻るよ。ノーマちゃん」



たまらず、この馬鹿な親友に抱きついた。
だって本当に馬鹿なんだもん。

暫くそうしてみんながまだ探し回ってるだろうから、病院に戻ることにした。その病院までの道を今までと変わらないような他愛の無い話ばかりしながら歩いた。

まるでこれが最後の会話のように。



















「あなたのなまえ!心配したんだぞ!」

「おーおー、クーが泣いてるー」

「こんな時に茶化すな!ノーマ!」




男共は元気そうなあなたのあだなを見ては安心したのか一息ついてる。そんな中ジェイがこっちに歩いてきた。



「あなたのなまえさん、もうこんなのやめてください。心臓が持ちません」

「ジェイったら大袈裟だよ。そんな事ないでしょ?」

「それと、何であの時ぼくを、」

「あとね、私ね…、大陸に戻ることにしたの」




さっきのほんわかしたこの場の空気が一変して、みんなの顔が曇っていく。


「たくさんみんなに迷惑ばかりかけちゃって…ごめんなさい。あと父様の事もごめんなさい。あれでも私にとってはイイ父親なんだよ」

「あなたのなまえさん、ぼくは、」

「ジェイが私を恨みたければ恨んだって良いからね?私もジェイが、みんなが、父様を殺したってちゃんと覚えておくから」



そして一瞬にして場が凍りついた。みんな言葉が見つからないかのように目を見開いては固まったまま黙ってる。勿論あたしも同じで。




「それじゃあ私は傷が開かない内に寝るね。…おやすみ」



病室に入って扉を閉めるまであたしらはあなたのあだなをただただ見る事しかできなかった。






















プリ小説オーディオドラマ