第49話

2月 動く心
17
2025/10/16 13:22 更新
2/26 夜 学生寮・4F作戦室
(なまえ)
あなた
急に呼び出して、すみません。
愛原 春翔
愛原 春翔
気にしないで。
愛原 春翔
愛原 春翔
お話って何?
(なまえ)
あなた
春翔さんは、
辛く無いんですか?
愛原 春翔
愛原 春翔
何が?
(なまえ)
あなた
自分だけが覚えていて、
周りは覚えていないことが。
愛原 春翔
愛原 春翔
確かに、
今の皆んなには記憶が無いね。
愛原 春翔
愛原 春翔
でも、
性格は変わらない。
愛原 春翔
愛原 春翔
仕草や行動、考え方。
あいつらは何も変わってない。
愛原 春翔
愛原 春翔
小雪ちゃんがさ、
前に記憶を失ったことが
あったじゃない。
(なまえ)
あなた
…はい。
愛原 春翔
愛原 春翔
その時の明彦も
ショックを受けてはいた。
でも、小雪ちゃんは
何も変わってはいなかった。
愛原 春翔
愛原 春翔
そのままの小雪ちゃんを受け入れて、
沢山のきっかけを与えた。
愛原 春翔
愛原 春翔
自分の気持ちもちゃんと伝えた。
愛原 春翔
愛原 春翔
…今度は、
小雪ちゃんが、
きっかけを与える番じゃ無いかな?
愛原 春翔
愛原 春翔
明彦を好きな気持ちがあるならさ。
愛原 春翔
愛原 春翔
明彦から貰いっぱなしはダメだよ。
たまには、小雪ちゃんからあげないと。
(なまえ)
あなた
……。
愛原 春翔
愛原 春翔
できそう?
(なまえ)
あなた
やってみます。
愛原 春翔
愛原 春翔
うん、頑張って。
2/27 放課後 月光館学園・屋上
真田 明彦
真田 明彦
涼宮。
(なまえ)
あなた
急に呼び出してしまい、
申し訳ありません。
(なまえ)
あなた
明彦先輩が、
知りたいこと全部話します。
真田 明彦
真田 明彦
本当か…。
(なまえ)
あなた
はい。
真田 明彦
真田 明彦
俺と涼宮はどんな関係なんだ?
(なまえ)
あなた
恋人関係です。
真田 明彦
真田 明彦
そうなのか…。
何も覚えてなくて、すまない。
(なまえ)
あなた
謝らないで下さい。
(なまえ)
あなた
覚えて無くても、
先輩は先輩です。
(なまえ)
あなた
何も変わってません。
真田 明彦
真田 明彦
俺は俺…。
(なまえ)
あなた
先輩が言ってくれた言葉です。
(なまえ)
あなた
今の先輩の中に
私が居なくても、構いません。
私が先輩を好きな気持ちは
変わりません。
(なまえ)
あなた
先輩が私にしてくれたことを
今度は私がやるんてす。
(なまえ)
あなた
先輩が私を好きになってくれるよう、
私が動くんです。
真田 明彦
真田 明彦
……。
(なまえ)
あなた
涼宮小雪は、
真田明彦さんのことが好きです。
(なまえ)
あなた
どんな時でも、
そばにいてくれて、
前を向いて、
支えてくれました。
(なまえ)
あなた
こんな私を好きになってくれました。
(なまえ)
あなた
だから、
(なまえ)
あなた
私は、
今の明彦先輩も
好きなままでいます。
(なまえ)
あなた
……返事は、いりません。
(なまえ)
あなた
急ですが、
明日のライブ、来て下さい。
小雪はそんな明彦に向けて、
ゆっくりと微笑んだ。
その微笑みには、
吹っ切れたような明るさがあった。
その反面、
悲しくも受け取れた。
昇降口から出てきた明彦は、
どこか上の空だった。
小雪と交わした言葉の余韻が、
まだ胸の奥に残っている。
荒垣 真次郎
荒垣 真次郎
アキ。
真田 明彦
真田 明彦
シンジ。
荒垣 真次郎
荒垣 真次郎
どうだった?
真田 明彦
真田 明彦
何が?
荒垣 真次郎
荒垣 真次郎
涼宮の話し、だよ。
その名を出された瞬間、
明彦の肩がわずかに跳ねた。
頬がじんわりと赤く染まる。
真田 明彦
真田 明彦
見てたのか?
荒垣 真次郎
荒垣 真次郎
大事な親友が傷付かないか
心配だったんだよ。
真田 明彦
真田 明彦
涼宮はそんなことしない。
荒垣 真次郎
荒垣 真次郎
ほぅ、何で分かるんだ?
真田 明彦
真田 明彦
それは…、
真田 明彦
真田 明彦
帰るぞ、シンジ‼︎
明彦は前を向いて歩き出す。
2/28 正午 学生寮・1Fラウンジ
桐条 美鶴
桐条 美鶴
〜♪
真田 明彦
真田 明彦
随分と機嫌がいいな。
桐条 美鶴
桐条 美鶴
今夜は
小雪のバースデーライブがあるんだ。
真田 明彦
真田 明彦
誰の誕生日なんだ?
桐条 美鶴
桐条 美鶴
小雪だ。
桐条 美鶴
桐条 美鶴
山岸が束ねる親衛隊主催の
バースデーライブさ。
真田 明彦
真田 明彦
今日は涼宮の誕生日なのか?
桐条 美鶴
桐条 美鶴
そう言ってるだろ。
真田 明彦
真田 明彦
美鶴は、
プレゼントを用意したのか?
桐条 美鶴
桐条 美鶴
当然だ。
真田 明彦
真田 明彦
何を用意したんだ?
桐条 美鶴
桐条 美鶴
秘密だ。
真田 明彦
真田 明彦
何で教えてくれなかったんだ。
桐条 美鶴
桐条 美鶴
興味があったのか?
真田 明彦
真田 明彦
最近興味を持ったんだ。
真田 明彦
真田 明彦
……。
桐条 美鶴
桐条 美鶴
私は準備があるので、
失礼する。
頭の中に昨日の会話がよみがえる。
小雪が、自分に好意を寄せていることを
そっと告げてきた瞬間。
一度、小雪を拒んでしまった。
それでも“好き”と言ってくれた。
明るい声。
澄んだ笑顔。
その笑顔の奥にわずかな影が見えた。
優しく微笑んでいるのに、
どこか切なげで、少しだけ儚い――
そんな気がして、胸がぎゅっと痛んだ。
真田 明彦
真田 明彦
(プレゼントを渡したら、
安心した笑顔が見れるだろうか?)
夕方 ポロニアンホールA
愛原 春翔
愛原 春翔
あっきー。
真田 明彦
真田 明彦
先生、お疲れ様です。
愛原 春翔
愛原 春翔
お疲れ様〜。
来てくれたんだ。
真田 明彦
真田 明彦
涼宮のお願いですから。
愛原 春翔
愛原 春翔
懐かしな〜。
真田 明彦
真田 明彦
愛原 春翔
愛原 春翔
俺とあっきーが
初めて会った場所。
真田 明彦
真田 明彦
そうでしたね。
真田 明彦
真田 明彦
急にストレートが飛んできて
驚いたことを覚えてます。
愛原 春翔
愛原 春翔
あったね〜。
真田 明彦
真田 明彦
あの時は、
涼宮が間に入って…、
真田 明彦
真田 明彦
俺を守ってくれたんだ。
愛原 春翔
愛原 春翔
俺は怒られちゃったな〜。
真田 明彦
真田 明彦
先生、涼宮は…
愛原 春翔
愛原 春翔
真田 明彦
真田 明彦
小雪は…
愛原 春翔
愛原 春翔
小雪ちゃんなら、
楽屋に行けば会えるよ。
真田 明彦
真田 明彦
行ってきます!!
小雪の楽屋
桐条 美鶴
桐条 美鶴
うん、似合ってるな。
山岸 風花
山岸 風花
あぁ〜、
小雪ちゃんが
私のデザインしたドレスを着てる…。
(なまえ)
あなた
ありがとう…ございます…。
山岸 風花
山岸 風花
夢が叶ったよ。
山岸 風花
山岸 風花
いつか、
小雪ちゃんのライブを
自分でプロデュースする夢が…。
山岸 風花
山岸 風花
これから、
機材の最終調整をするので、
失礼します。
桐条 美鶴
桐条 美鶴
頼んだぞ、山岸。
山岸 風花
山岸 風花
はい。
風花楽屋を出た。
風花と入れ替わるように、
カメラマンが入ってくる。
(なまえ)
あなた
あの……、
桐条 美鶴
桐条 美鶴
私が呼んだ。
この瞬間をしっかり
記録しておきたくてな。
(なまえ)
あなた
わぁ……。
桐条 美鶴
桐条 美鶴
映像にも残す。
桐条 美鶴
桐条 美鶴
一度、
フルで撮りたかったんだ。
桐条 美鶴
桐条 美鶴
では、お願いします。
美鶴はカメラマンに指示を出し、
小雪を撮り始めた。
――10分後
(なまえ)
あなた
(始まる前に疲れたかも・・・・)
慣れないことをしたせいか、
ソファでぐったりする小雪。
(なまえ)
あなた
(これから体力使うのに・・・・)
"コンコン"っとドアをノックされる。
その音で小雪は立ち上がり、
ドアを開ける。
真田 明彦
真田 明彦
小雪、今いいか?
(なまえ)
あなた
先輩!?
(なまえ)
あなた
ど、どうぞ。
明彦の視線が小雪の姿を捉えた。
その瞳に宿る熱が、明らかにいつもと違う。
白と淡い青を基調とした衣装が、
小雪の透明感を際立たせていた。
その瞬間――明彦の呼吸が止まる。
言葉を探すよりも早く、
明彦の身体が自然に動いた。
気づけば、小雪をそっと抱き寄せていた。
小雪は小さく息を呑み、瞳を大きく見開く。
明彦の鼓動が、すぐ耳元で響いていた。
何も言わず、しばらくそのまま。
静寂の中で、
2人の鼓動だけが確かに存在していた。
そして――
明彦が低く、掠れるように呟く。
真田 明彦
真田 明彦
……恋人なら、
当然のことだよな?
小雪の肩がわずかに震えた。
信じられない言葉に、胸の奥が熱くなる。

明彦の記憶には、
もう自分との日々は残っていないはず。
けれど、その言葉は、
まるで心だけが覚えているようで。
(なまえ)
あなた
……先輩…。
小雪は、胸の奥が熱くなるのを感じた。
涙が滲み、目を逸らそうと一歩下がる。
けれど明彦の手が、そっと小雪の肩を掴んだ。
真田 明彦
真田 明彦
行くな。
その声は静かだったが、
揺るぎのない強さがあった。
小雪は息を呑む。
明彦の瞳が真っ直ぐに自分を見ていた。
記憶を失っているはずのその目が、
まるで“忘れたくなかった何か”を探すように。
真田 明彦
真田 明彦
……離したくない。
小雪はその言葉に胸を締め付けられ、
俯いたまま小さく頷く。
次の瞬間、
明彦はそっと小雪を引き寄せ
――唇を重ねた。
触れるだけの、静かな口づけ。
懐かしさにも似た温もりが、
小雪の胸を締めつける。
それは言葉を超えて
“何か”がまだ繋がっていると伝えていた。
唇が離れた瞬間、静かな空気が楽屋を包んだ。
小雪の頬を、ひとすじの涙が伝う。
(なまえ)
あなた
……先輩のせいで、
お化粧をやり直さないとです。
無理に笑おうとするように、
小雪は目元を拭いながら小さく言った。
その笑顔が、涙で滲んでいるのが分かる。
真田 明彦
真田 明彦
……小雪が可愛かったんだ、
仕方ないだろ。
小雪は驚いたように明彦を見上げ、
けれどすぐにそっと視線を逸らす。
明彦の腕の中から静かに離れ、
俯いたまま小さく微笑む。
光に揺れる髪の向こうで、
その微笑みはどこか切なげに震えていた。
小雪は鏡の前に立ち、
涙の跡を指先でそっと拭った。
そのまま明彦の姿を鏡越しに見つめ、
少しだけ息を整える。
(なまえ)
あなた
……先輩、
もうすぐ始まりますから、
戻って下さい。
やんわりとした口調だったが、
その声にははっきりとした意志があった。
明彦は何か言いかけたが、
小雪の背中を見て、言葉を飲み込む。
ドアへと歩き出す明彦の背中に、
小雪はほんの小さな声で呟いた。
(なまえ)
あなた
……来てくれて、
ありがとうございます。
明彦が振り返ったときには、
もうドアは閉まっていた。
照明が落ち、ざわめきが静寂へと変わっていく。
ギターの弦が、静かに鳴った。
小雪がひとり、
ステージの中央に立っていた。
白いライトが彼女の肩を包み、
その姿を浮かび上がらせる。
小さな体で、けれど確かな音を、
指先から生み出していく。
真田 明彦
真田 明彦
(――綺麗だな)
気づけば、明彦は息を呑んでいた。
指先の震えも、瞳の真っ直ぐさも、すべてが懐かしい。
初めて見たときから、きっと何かに惹かれていた。
自分の中に眠る“あの日々”の残響が、
ギターの音に重なって胸を揺らしていく。
真田 明彦
真田 明彦
(どうして、俺は……
この子を好きになったんだ?)
そんな問いが、自然と心に浮かんだ。
だが、答えはもうわかっていた。
優しくて、不器用で、
真っ直ぐで、
意外と泣き虫で、
放っておけなくて、
俺をちゃんと見て、
それから・・・、
ライブが終わり、
静まり返ったステージ。
照明が落ち、
まだ余韻の残る音だけが空気に漂っていた。
胸の奥が、温かくも痛かった。
記憶の底をいくら探しても、
あの日々の輪郭はもう見えない。
それでも――
真田 明彦
真田 明彦
(……やっぱ、好きなんだな)
自分でも驚くほど穏やかな声が漏れた。
小雪の笑顔を見ただけで、心が満たされる。
その理由を、もう思い出せなくてもいいと思えた。
真田 明彦
真田 明彦
(――記憶が無くても、
想いはここにある)
それが、今の自分の答えだった。
夜 学生寮・小雪の部屋前
明彦は、手の中に小さな箱を握りしめていた。
深い紺色の包装紙に、銀のリボン。
小雪との繋がりを感じられるもの――
何度も迷った末に選んだ、ペアのマグカップだった。
ドアの前で軽く息を吸い、ノックをする。
“はい”と小雪の少し疲れた声が返ってくる。
ドアが開き、
淡い光に照らされた小雪の顔を見つけると、
明彦は少し照れくさそうに手を差し出した。
(なまえ)
あなた
・・・・?
真田 明彦
真田 明彦
悪いな、こんな時間に。
遅くなったけど、
誕生日おめでとう。
小雪の瞳が大きく見開かれ、
すぐに柔らかな笑みが浮かぶ。
(なまえ)
あなた
……ありがとうございます。
明彦は小箱を差し出す。
小雪が丁寧にリボンをほどき、蓋を開けると、
中には白地に淡い青の模様が入った
ペアマグカップが並んでいた。
1つは小雪用、もう1つは明彦用。
同じデザインで、2つを並べると、
まるで2人の距離を映すようにぴったり重なった。
(なまえ)
あなた
……可愛いです。
小雪の声が少し震え、
目元にわずかに光が宿った。
真田 明彦
真田 明彦
まだ思い出せないが、
こうして同じモノを使えば、
繋がりを感じられるかと…。
明彦の言葉に、小雪の胸が熱くなる。
自然と涙が頬を伝い、ぽろりとこぼれ落ちた。
真田 明彦
真田 明彦
……小雪は泣き虫だな。
明彦は微笑みながら、
そっと小雪の涙を拭う。
小雪は涙を拭いながらも、
安心したように微笑み返した。
2人の間に、
静かで柔らかな温もりが広がった。
記憶は戻らなくても、
この瞬間だけは確かに“つながっている”と感じられた。

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