第212話

One【2】
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2026/03/11 08:00 更新
犬堂 レオ
犬堂 レオ
かみちゃん!!あまちゃん!!なぎちゃん!!
今日も収録一緒に頑張るっすよ~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
二階堂 渚
二階堂 渚
…え、
如月 天音
如月 天音
レオさん……その、顔(・)。
犬堂 レオ
犬堂 レオ
……ぇ、?
あまちゃんが、怯えたような声で俺の顔を指差した。
慌てて鏡を覗き込む。
其処には、信じられない光景が映っていた。

厚く塗り重ねたはずのコンシーラーが、
ドロドロと溶け落ちて、その下から
あの頃の黝(あおぐろ)い痣が、醜い玲央(あいつ)が
ドクドクと脈打ちながら這い出してきた。
犬堂 レオ
犬堂 レオ
やだ…ッやだ、やめて…見ないで、見ないでよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
必死に手で隠そうとするけど、
アイラインは真っ黒な涙になって流れ落ち
派手なアイシャドウは泥のように濁っていく。
ア 真ネ ?
ア 真ネ ?
うわ……何これ、キモ……
カミ 死゛ キ
カミ 死゛ キ
汚い。こっち来んな。
 亡 キ   ゛サ !
亡 キ ゛サ !
醜い…気持ち悪い。
三人の口から、あの日教室で
浴びせられた言葉が鋭いナイフとなって
俺の胸をぐちゃぐちゃに抉る。

先生が俺を無視した時の、あの氷のような視線。

パパが俺を殴る時の、あの楽しそうな笑い声。

それが、大好きな三人の顔と重なる。
犬堂 レオ
犬堂 レオ
やめて……ッや゛め、やめて、おねがい、
ねぇっ…やめ゛てよ……ッあ、ぁ゛、ああ゛、ッ
犬堂 レオ
犬堂 レオ
…ッは、…ぁ…ッは、ぅ、あ゛ッ、
目を覚ますと、其処はいつもの自分の部屋だった。

心臓は、今にも口からぼろっと
飛び出しそうな程に、とても速く脈打っている。
身体は全身、嫌な汗でびしょ濡れだ。

荒い呼吸を整えようとした瞬間、
視界がぐにゃりと歪んだ。
いつの間にか、俺は自分のベッドに押し倒されていた。

背後から、俺の背骨を軋ませながら誰かがのしかかってくる。
玲央
玲央
ねぇ、レオくん。…いつまでそのお面、つけてるの?
身をよじろうとしたけど、
体は金縛りにあったみたいに動かない。

背中に感じるのは、泥だらけのランドセルの感触。
そして、あの日バケツに突っ込まれた、腐った水の匂い。
玲央
玲央
なんで俺を消そうとするの?なんでそんなに遠ざけるの?
……ねぇ、俺、ずっと痛いよ。ずっと辛いよ。
パパに殴られたところ、まだ熱いんだよ?
絆創膏の下、ジュクジュクして血が止まらないんだよ?
玲央
玲央
あの日からずっと…ずっとずっとずっと、
ずーっと本当の俺を隠して、
中学校でも高校でも大人になっても
皆の前でずっと犬堂レオを演じてさぁ、
俺の事なんてちゃんと見てくれやしない。
玲央
玲央
なぁに、このウィッグ。外しなよ。
こんな明るい水色、君には似合わないよ。
玲央
玲央
なんでそんなキラキラな仮面被ってるの。
安っぽい絵の具で俺を塗り潰さないでよ。
嫌わないでよ。遠ざけないでよ。逃げないでよ。
お化粧なんてしなくても、俺は此処にいるのに。
……俺が、本当のレオくんなのに。
声が出ない。

喉の奥に、あの時無理やり飲まされた虫が
詰まっているかのような不快な苦味がせり上がってくる。

頬に、泥と涙で汚れた指が触れた。
その指は、俺が必死に作り上げた
『犬堂レオ』の厚いメイクを、
爪を立ててガリガリと皮膚ごと剥ぎ取ろうとしてくる。
玲央
玲央
ねぇ、皆に本当のレオくんを見せてあげようよ。
『本当はこんなにボロボロで、死にそうなんです』
『皆をずぅーっと騙してたんです』
って、教えてあげようよ。
玲央
玲央
嘘つきのレオくんなんて、すぐに飽きられちゃうね。
最後には、お母さんみたいに俺達を嫌って、
俺達を置き去りにしてみーんな何処かに行っちゃうね。
犬堂 レオ
犬堂 レオ
やだ、いやだッ゛ちがッ、ちがうもん……
だって、ッ゛みんなは、…そんなこと……
パシャリ、とスマホのシャッター音が耳を劈いた。
あの日と同じ無数のフラッシュの白い光が、俺を嘲笑う。
玲央
玲央
俺を殺してまで作った君の笑顔…いつまで持つのかなぁ。
あまちゃんとかみちゃんとなぎちゃんの3人はさぁ、
今の俺を見たらなんて言うだろうね。
『うわ、中身はこんなにボロボロでキモいんだ』
って、今までの思い出全部忘れて俺を拒絶して
ゴミ箱に捨ててくれるのかなぁ。
クスクスと、背後で子供のように笑う。

パシャリ。

パシャリ。

パシャリ。

フラッシュの白い光が、瞼の裏に
あの「死ね」と刻まれた机を浮かび上がらせる。
玲央
玲央
でもね、俺、そんな事よりもレオくんが
俺を元から居なかったかのようにする方が
よっぽど辛いんだぁ、ねぇねぇ、
俺の気持ちわかる?わかんないよね、ねぇ。
ねぇってば。答えろよ。ねぇ。
玲央
玲央
……ねぇ、レオくん。もういいよ。
俺だけ惨めな思いをするのは違うでしょ?
ほら、ねぇ、早く剥がせよ、そのメイク、
ねぇ、ほら、はやく、はやく、はやく!!!!!!
犬堂 レオ
犬堂 レオ
ッや、やめ…やだ、ねぇ、痛いッ、やめて、
犬堂 レオ
犬堂 レオ
ッう゛あ゛ぁあぁ゛あ゛ぁぁぁ゛あああ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
喉を掻き切るような短い悲鳴と一緒に跳ね起きた。

夢だ。さっきのは夢だ。なんだ、なんなんだよ。
犬堂 レオ
犬堂 レオ
はッ…はぁッ、…ぁ、はぁッ…ゲホッ…
荒い呼吸を繰り返す度に、
口の中にあの虫の苦味が広がって、
吐き気がせり上がる。

ガタガタと震える腕は、
何かを必死に胸元に抱え込んでいた。
犬堂 レオ
犬堂 レオ
……ぁ、
其処にあったのは、鮮やかな青色のウィッグ。
俺が『レオ』になる為に必須で、大切な物。

指先が、ウィッグの繊維に深く食い込む。

抱きしめる力が強くなる程、
ウィッグの冷たい感触が、
夢の中の玲央の肌の冷たさと混ざり合っていく。

耳元で、まだあの声が聞こえる気がする。
犬堂 レオ
犬堂 レオ
ちがう、……ちがう、俺は、……
汗で張り付いたシャツが気持ち悪い。

もしも本当の俺を知られたら、
なぎちゃんも、あまちゃんも、かみちゃんも
皆、パパやママみたいに『邪魔』って言って、
きっと俺を捨てるんだって、わかってる。

わかってるから。

だから、隠し通さなきゃって。

俺、わかってるから。
犬堂 レオ
犬堂 レオ
…くるしい、
でも、もしも本当の俺がバレたら?

拒絶されたら?

皆に嫌われたら?

考えるだけで苦しくなる。

そうだよね。

嘘つきなんて、嫌われちゃうよね。

いつか、いつか嫌われてしまう日が来るのではないか。

最初から全部全部曝け出してたら、
序盤で嫌われて其処で全部終わっていたはずなのに。
皆に思い入れもないまま嫌われていたら、
全然苦しくなんかなかったのに。

皆と仲良くなるにつれて、
嫌われたくないって感情が
どんどん強くなっていって。

いつまでもいつまでも、
本当の事が言えなくて。

ずっと自分にも、皆にも、嘘をついてばかりで。

こんな俺が、皆と一緒に居て良いはず無いのに。

最初からどうなるかなんて、結末は分かりきっていたはずなのに。

あまちゃんが言っていたあの言葉の意味が、
ようやく分かった気がする。

こんなに苦しかったんだなぁ。

皆はよく頑張ったなぁ。
よく立ち直れたなぁ。
よく過去を愛せたなぁ。



俺には、きっと、ずっと無理だよ。
犬堂 レオ
犬堂 レオ
……もう、いいや

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