数日後の朝
今日は二駅程離れた場所にある神社と、その近くで夏祭りが行われる
本当は神社の方へ行きたかったが、アイラが異様に拒むので周辺へ向かう事となった
祭りが開始されるのは正午からなので、朝は各自荷物を整えている
と言っても特に必要な物は無く、精々財布と携帯端末くらいである
の筈だが……
アイラが下着姿で鏡と向かい合わせとなり、サクハがその寸法を取っていた
サクハ曰く、アイラにはできるだけおめかしをして欲しいらしく、先日の水着も内心複雑だったそうだ
故に、今度こそアイラには良い浴衣を着せたかった
しかし懐は厳しく、サクハが既に持っている浴衣をアイラに合わせる方針に決まった
全くと言って良い程にサクハとアイラの体型には差が無かった
当然といえば当然だろう
何しろ、アイラの現在の肉体はサクハを元に複製された、言わばクローンである
ただ、あくまで“全くと言って良い程”であり、全く同じではない
1センチにも満たない誤差
されど、1ミリ以上の大差
骨格、身長、バスト、ヒップ
それらは誤差無く一致するのにも関わらず、体重とウエストのみ、僅かながら差が出ている
なんなら全体的に雰囲気が違う
サクハはごく平均的な肉付きである
一方アイラは全身が引き締まっており、並のアスリートレベルには筋肉質だ
当たり前だろう
常人程度の運動量では、あのアイラの足下にも及びはしないだろう
むしろ何故、数値が一致しているのかがわからない
が、悔しいものは悔しい
少しばかりの敗北感を味わいながら、結局使わなかったミシンと裁縫箱を仕舞う
サクハが「え!?」と驚きながら振り返る
勢い余って首を痛めたようで、自身のうなじをさすっている
流石に可哀想だったので引き出しから湿布を取り出し貼ってやった
ふと、壁に掛けられた時計を見ると、短い針が12の数を指していた
ユウマ達は待ちくたびれていた
サクハが寝坊するとは思えないし、アイラが何かしらやらかしたのだろうか
面倒な事になっていないか不安が募る
瓜二つの二人が慌てて走って来た
アイラが煩わしそうに腕を振っている
やはり浴衣では走り辛いのだろう
サクハは桜の浴衣を着ており、桜色の髪と色白な肌と合いとても映えている
アイラの浴衣は紺色の生地に真紅の蝶が舞っていた
荒っぽいアイラもやはり容姿は優れているので黙っていれば美しい
しかしながら、どうやらサクハとアイラだけではちゃんと帯を結べなかったようだ
なんとか落ちない程度には出来ているようだが、拳一つ入る隙間が空いてしまっていた
和服は着るのが難しく、苦手は者はとことん苦手でまるで着こなす事ができない
どうやらサクハは他人の帯を結んだ事が無い上、アイラもまともな衣服を着用する経験が少なく、どうしても不格好になってしまうだろう
サクハは申し訳なさそうに何度も謝る
アイラもどことなくしょんぼりしている気もする
そんな空気に嫌気が差したのか、ミレイがサクハの手を引いて駆け出した
まだ日が高い時間だが人混みが出来ている
アイラは焼きそばやたこ焼き、りんご飴等の様々な食べ物を抱えている
ユウマはハカと、サクハはミレイとペアを組んで別行動となってしまったため、相手がおらず余ってしまった
肩に何かが当たってバランスを崩しかける
誰かとぶつかってしまったのかと振り向くが、そこには既に誰もいなかった
……明らかに悪意のあるぶつかり方だったが、既に逃走したのなら追いようがない
子供のいたずらだったと大目に見るとしよう
適当なベンチに腰を降ろす
りんご飴や綿飴のようなどこかに置いておけないものから手を着ける
一応、20時あたりに合流する予定にはなっている
それくらいの時間にハナビが上がるらしく、それを全員で見たいとサクハが言っていた
神社からだとよく見えるらしいが、残念ながらそれは拒否させてもらった
避けられないとしても、まだその時には早過ぎる
…少し、だけだが、可哀想には思う
俺が知る限り、サクハはユウマ達と出会うまでは友人や恋人なんかが一人もいなかった
原因は俺である
サクハは幼い頃から俺の神社に通い続けていた
ボロボロで、悪霊でも出て来そうな不気味な神社に
厳しく注意する家族に黙って、同級生ともつるまず、呪いでも受けたかのように、ずっと
夢枕に立って「巫女になれ」と告げる事が、俺にとって精一杯の、サクハを守る方法であった
それは間違いだった
「来るな」と脅せば良かった
彼女を懐い過ぎていた
未だに後悔に襲われる
サクハの事も、かつての事も
それでも無かった事には出来なかった
彼女に与えられたモノに止められて
だからこそ、俺は後悔する
それが俺に課された罰だから
物騒な形をした歯が木製の棒を噛み砕く
いつの間にか綿飴を食べ終わっていたようだ
結局、ほとんど味わえずに食べ切ってしまった
口の中の木の破片を吐き出し、近くのゴミ箱に投げ入れた
齧ったフランクフルトを飲み込む
不味い
ヒトの食い物に、血に肥えた舌を満足など、させる事は出来ない
それでも俺は美味だと嘘を吐く
これは戒めなのだ
■の味を覚えた 自分への
…
ふと、サクハの顔が思い浮かぶ
楽しそうな顔、寂しそうな顔、嬉しそうな顔、哀しそうな顔、不満そうな顔
サクハが物心ついた頃から何度も見てきた
触れる事が叶わずとも、己に向けられたものでなくとも、護る事が出来なくとも
今はどうだ?
触れる事が叶う、己に向けられたものである、護る事が出来る
結果良ければ全て良しとは言わないが、昔のような辛さはまるで無い
一つ、溜息をつく
今も、昔も、相も変わらず、ずっと弱い
俺は呪われているのだろう
今日もまた、俺は■に蝕まれる












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!