立ち並ぶ店や街灯が照らす道を
隊長と並んで歩く。
時刻は20時を回っていた。
いくらか人通りは少なく、
普段賑やかな街並みは静かで、
靴底がコンクリートを鳴らす音がよく聴こえる。
この人今日の昼もブリトーじゃなかったっけ。
と、任務中の昼下がりを思い出す。
いつもの道を辿り、
いつものメキシコ料理店へ入る。
緑色のドアを押し開ければ、カランコロンと
ベルが控えめに鳴った。
店内には年配の男性が1人と若い男女、
カウンターを見れば店主が居て料理の下準備を
している様だった。
店の奥にある2人用の席につく。
奥が隊長、手前に私。
テーブルを挟んで向かい合う様に
椅子に腰をおろす。
先客がいなければ、私たちが座るのは決まって
この席だ。
水が注がれたグラスを2人分持って、
店主が私たちに話しかける。
白髪に赤いバンダナが印象に残る
気前のいいおじいさんだ。
少しの間沈黙が流れる。
スマホを触ったり、意味もなくメニュー表を
めくったりして料理が届くまで時間を潰す。
他の人とだったらきっと居心地の悪い、
この気不味いであろう時間も、
この人とであれば今となっては気にならない。
………あ、そうだ
私の声に、隊長は
スマホに落としていた視線を上げ、
私と目を合わせた。
私の問いかけに、隊長は少し間を置き、
灰皿に煙草を押し付け口を開いた。
隊長は片手で口元を隠し肘をつく。
目は合わない。
絶対悪いと思ってない。
というか分かってて黙ってたなきっと。
隊長は意外と笑う人だ。
ここ数ヶ月、徐々に笑顔を見る回数が
増えてきている。
初めてタッグを組んだ日は怖かったなぁ。
表情は変わんないしずっと煙草吸ってたし。
隊長の幼馴染のゼノさん。
NASAの科学者という凄い人だ。
以前、隊長の紹介で初めてお会いしたけど、
それはもう色々な意味で凄い方だった。
それにその日は隊長が用事があると言って
途中で退室。
私からすれば上司の親友、
ゼノさんからすれば親友の部下、
どちらにせよお互い初対面だ。
それなのに何食わぬ顔でこの人は部屋を出た。
バタン。
私の呼びかけは拾われること無く、
無慈悲に閉められたドアにぶつかった。
始まってはいけない何かが始まってしまったようだ。
あまりに生き生きと言葉を紡ぐので
止めようにも止められなく、
そのままズルズルと隊長が戻って来るまで
科学の徹底解説はノンストップで続いた。
懐かしいな。
今思えば聴いていて損は無かった話だ。
もう一度会って違う話を聴いてみたいかも。
ゼノさんと初めて会った日を思い出していると
店主がブリトーの乗った皿を2つ、
隊長の前と私の前に並べた。
クリーム色の陶器皿に、
こんがりと焼き色のついたトルティーヤで
包まれたブリトーがふんわり湯気を立てて
乗っている。
香ばしい香りが鼻を擽った。
やられた…!
と思った時にはもう遅く、2人分のお代を
隊長から受け取った店主は既にカウンターへと
戻っていっていた。
隊長はこちらを見て目を細めフッと笑い、
いつの間にか吸っていたらしい煙草を
口元から離し、灰皿で火を消した。
今日はほんとに負けないと思って
懐にお代を忍ばせてまでいたのに……
つい口から言葉が溢れる。
反対側から手が伸びてきて、
ぽん、と頭に乗っかった。
…払われてしまっては仕方ない。
次があった時の作戦を考えながら、
ブリトーを両手で持ち上げる。
熱さを警戒しつつ、角の方から一口齧った。
そう思わず口に出してしまうほどには
美味しいものであった。
あの隊長がリピートするのも頷ける。
次からここに来るときはブリトーを注文しよう。
ナプキンで口元を拭われた。
夢中で口元にソースがついているのにも
気づかなかったらしい。
伸びろ〜〜












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。