前の話
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ふと目を覚ます。
目の前に広がるのは、四角だけで構成された世界だ。
自分でも何を言ってるか分からない。
しかし、表現する言葉はそれしか見当たらなかった。
地面も、木も、空の雲だって、全てがおよそ1m四方の立方体で出来ている。
もっと周りを見ようと立ち上がろうとして、やけに自分の背が低いことに気がついた。
己の手のひらを見て、私は絶叫した。
慌ててそばにある海に向かって、私の姿を見る。
それは紛れもない、
そう。猫だった。
いや、水に映った私さえも四角だけれど。
一体なにが起こったんだ。私はただ、いつも通り家に帰って、布団で眠っただけなのに。
頭がぐるぐるして、ぺたりと座り込む。
途方に暮れたその時、遠くから誰かの話し声を聞いた。
私は勢いよくその方向を向いて、耳に集中する。
やっぱり。
この世界にも誰か人がいるんだ。
私は勢いよくそちらへ駆け出した。
自分の背丈の2倍もある段差も難なく飛び越えて、木々の細い隙間を走り抜けて行くこの体に、私が猫となったことを実感させられる。
でも、今は気にしてる場合じゃない。
森をひたすら走って、抜けた先に、4つの人影が見えた。
その人たちも当たり前のように四角いけれど、私はなんにも考えずに声を上げた。
いくら呼びかけても、私の声は無視される。
この人たちの性格が悪いのか?
いやそんなことはないだろう。彼らはさっきまで仲良く談笑していたし。
「なぜ?」に脳が支配されて止まっているうちに、彼らは私を無視してまた話しだした。
撮影?
なんのことだろう、黄色いパーカーの彼はカメラなど持っていない。
突然彼らは自己紹介をし始めた。
ますます意味がわからない。私を無視したのに自己紹介?
誰に向かって?何かで撮っているのだろうか?
思わず声が漏れる。
クロノアと名乗った彼が、しゃがんで私と目線を合わせる。
話しかけられたことに動揺して、つい答える。
すると、向こうが聞いてきたのに、クロノア?さんは目を丸くして驚いた様子だ。
そこでようやく、私は気がついた。
私の声は、猫の鳴き声となって聞こえるらしい。
だから会話できなかったんだ。
理解して、それなら、私はどうやって彼らに人であることを伝えればいいのだろうか。
絶望で地面に伏せる。
するとそれを見た彼らはまた喋り出して。
しにがみ?さんがなぜか疑われていて、その弁明をしている中でクロノアさんはマイペースに私を眺めている。
騒がしいなと思って少し距離を取ろうとして、後ろに下がる。
じりじりと後退して、そして、私はすぐ近くにあった海に気が付かなくて。
ざぶん。
そんな効果音がして、私は水中に沈んでいった。
そばを泳いでいた鮭が逃げるのが見えた。鮭でさえも四角だ。
水上にあがろうとして、慣れない身体で必死に水を掻く。
それでもなぜか、気泡に巻かれて勢いよく海中に引き込まれていく。
私はなす術なくどんどん沈んでいって、水面が遠のいて行くのを見ていた。
海底に足をついた瞬間、急に体が熱くなった。
なにこれ!?熱すぎて痛い!!!
ゲームのダメージ音みたいなのが鳴ると、その度に痛みが全身に走る。
逃げようとしてもおかしなことに引きつけられて離れられない。
もうダメかも知れない、直感的にそう感じたとき、
誰かが上から飛び込んでくるのが見えて。
あれは…ぺいんと、と言っていた人だろうか?
彼はすごい速さで泳いできて、そして私を押し出した。
その途端、急に体が浮き出した。
あっという間に水面に上がっていて、私は急いで砂浜へ。
ブルブルと体についた水を払う。
死ぬ!?
聞こえてきたその単語に驚いて、私は慌てて海面に呼びかける。
しかし現実は非情で、断末魔が響いて、水の奥深くに微かに見えていたぺいんとさんは消えていった。
…え…死んだ?
…あー…
どうやら、この世界はゲームの世界みたい。
現に死んだはずの彼が背後から現れて、ピンピンしている。
私はどうやら、猫になってゲームに入ってしまったようだ。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。