屋敷は夜になると、音が減る。
風と、遠くの街の気配だけが残る。
エヴァンは寝室の椅子に座っていた。
首元を覆うシャツの襟に、無意識に指をかけている。
扉が、ノックもなく開いた。
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**ルシアン**
「起きてる?」
小さな影が、灯りの中に入ってくる。
**エヴァン**
「……起きてた」
ルシアンは満足そうに笑い、
ベッドの縁に腰掛けた。
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**ルシアン**
「昼のことさ」
いきなり、本題。
**ルシアン**
「なんで、あの人間を庇ったの?」
責める口調じゃない。
問いかけですらない、確認。
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**エヴァン**
「……庇ったつもりはない」
**ルシアン**
「でも止めたよね」
視線が、まっすぐ向けられる。
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沈黙。
エヴァンは一度、息を吸う。
**エヴァン**
「……ああいうの、好きじゃない」
**ルシアン**
「なにが?」
**エヴァン**
「人を、物みたいに扱うの」
言い切った。
逃げない声。
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ルシアンは、少しだけ目を見開いた。
それから、くすっと笑う。
**ルシアン**
「君がそれ言うんだ」
楽しそうですらある。
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**ルシアン**
「君、自分が何か分かってる?」
ベッドから降りて、
ゆっくり距離を詰める。
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**ルシアン**
「拾われた人間」
「育てられた人間」
「血をくれる人間」
一つずつ、指を折る。
**ルシアン**
「どれも正解だけど、足りない」
エヴァンの前に立ち、
見下ろす。
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**ルシアン**
「君は“僕のもの”」
声音は静か。
昼間より、ずっと低い。
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**エヴァン**
「……それでも」
声が、わずかに震える。
**エヴァン**
「俺は、人間だ」
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一瞬。
ルシアンの笑顔が、完全に消えた。
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**ルシアン**
「そうだね」
否定しない。
**ルシアン**
「だからこそ、面白い」
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ルシアンは、エヴァンの顎に触れた。
持ち上げるほどの力はない。
**選ばせないための接触**。
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**ルシアン**
「人間だから、反抗する」
「人間だから、庇う」
「人間だから、壊れる」
指先が、首元に滑る。
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**ルシアン**
「でもさ」
目が、赤く光る。
**ルシアン**
「人間だからって、
僕より上に行けると思わないで」
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**エヴァン**
「……行こうとは、してない」
**ルシアン**
「うん」
即答。
**ルシアン**
「知ってる」
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一拍。
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**ルシアン**
「今日は、ちゃんと吸うよ」
宣告。
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エヴァンは、目を閉じた。
拒まない。
でも、完全に受け入れてもいない。
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**エヴァン**
「……終わったら」
**ルシアン**
「なに?」
**エヴァン**
「……外の話、していい?」
ほんの、希望。
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ルシアンは少し考えるふりをしてから、笑った。
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**ルシアン**
「いいよ」
**ルシアン**
「どうせ、君は出ていけないし」
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エヴァンの喉が、小さく鳴る。
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**ルシアン**
「ほら」
首元に、顔を近づけながら。
**ルシアン**
「大丈夫」
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> 「壊す気はないよ。
> 僕のお気に入りなんだから」
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灯りが揺れる。
外の世界は、
この部屋からは見えない。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!