第3話

まだまだ〜
10
2026/01/15 04:41 更新
屋敷は夜になると、音が減る。
風と、遠くの街の気配だけが残る。

エヴァンは寝室の椅子に座っていた。
首元を覆うシャツの襟に、無意識に指をかけている。

扉が、ノックもなく開いた。

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**ルシアン**
「起きてる?」

小さな影が、灯りの中に入ってくる。

**エヴァン**
「……起きてた」

ルシアンは満足そうに笑い、
ベッドの縁に腰掛けた。

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**ルシアン**
「昼のことさ」

いきなり、本題。

**ルシアン**
「なんで、あの人間を庇ったの?」

責める口調じゃない。
問いかけですらない、確認。

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**エヴァン**
「……庇ったつもりはない」

**ルシアン**
「でも止めたよね」

視線が、まっすぐ向けられる。

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沈黙。

エヴァンは一度、息を吸う。

**エヴァン**
「……ああいうの、好きじゃない」

**ルシアン**
「なにが?」

**エヴァン**
「人を、物みたいに扱うの」

言い切った。
逃げない声。

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ルシアンは、少しだけ目を見開いた。

それから、くすっと笑う。

**ルシアン**
「君がそれ言うんだ」

楽しそうですらある。

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**ルシアン**
「君、自分が何か分かってる?」

ベッドから降りて、
ゆっくり距離を詰める。

---

**ルシアン**
「拾われた人間」
「育てられた人間」
「血をくれる人間」

一つずつ、指を折る。

**ルシアン**
「どれも正解だけど、足りない」

エヴァンの前に立ち、
見下ろす。

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**ルシアン**
「君は“僕のもの”」

声音は静か。
昼間より、ずっと低い。

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**エヴァン**
「……それでも」

声が、わずかに震える。

**エヴァン**
「俺は、人間だ」

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一瞬。

ルシアンの笑顔が、完全に消えた。

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**ルシアン**
「そうだね」

否定しない。

**ルシアン**
「だからこそ、面白い」

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ルシアンは、エヴァンの顎に触れた。
持ち上げるほどの力はない。

**選ばせないための接触**。

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**ルシアン**
「人間だから、反抗する」
「人間だから、庇う」
「人間だから、壊れる」

指先が、首元に滑る。

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**ルシアン**
「でもさ」

目が、赤く光る。

**ルシアン**
「人間だからって、
僕より上に行けると思わないで」

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**エヴァン**
「……行こうとは、してない」

**ルシアン**
「うん」

即答。

**ルシアン**
「知ってる」

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一拍。

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**ルシアン**
「今日は、ちゃんと吸うよ」

宣告。

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エヴァンは、目を閉じた。
拒まない。
でも、完全に受け入れてもいない。

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**エヴァン**
「……終わったら」

**ルシアン**
「なに?」

**エヴァン**
「……外の話、していい?」

ほんの、希望。

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ルシアンは少し考えるふりをしてから、笑った。

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**ルシアン**
「いいよ」

**ルシアン**
「どうせ、君は出ていけないし」

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エヴァンの喉が、小さく鳴る。

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**ルシアン**
「ほら」

首元に、顔を近づけながら。

**ルシアン**
「大丈夫」

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> 「壊す気はないよ。
> 僕のお気に入りなんだから」

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灯りが揺れる。

外の世界は、
この部屋からは見えない。

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