私の手を取ろうとして、天使に切られていたアラスター。私はあの時、手が届かなかったアラスターの顔が、忘れられない。
悲しまないで欲しかった。
私のせいでそんな顔をしたら、だめだよ。
背面に突如現れた扉はドアを開け、あなたを飲み込んだ。
見覚えのある、場所だった。
……何故。
ここに《また》やってきてしまったんだ??
そこは、道路。
もう、ずっと前に、タクシーのおじさんに、乗せてってもらった。死に場所を探しに通った道。
私は走った。
夜道で車は全然走っていない。でも、分かる。
ここが地獄では無いこと。
私が、《元の場所》に戻ったこと。
こんなに動悸が激しいのは、こんなに息が苦しいのは、走ったせいだけでは無い。
あなたの声は真っ暗な空に吸収される。この世にただ1人であるかのような絶望感にあなたは膝をつき泣き崩れた。
空は暗く、誰もいない。
こんなに叫んでいるのだから、1人くらい気づきそうなものだが、あなたの声は静かな空に溶けていく。
涙が枯れる。
喉が焼けたように痛い。
手も、痛い。
天使の手を切った時に、自分の手首も切ったのだった。
ドクドクと血が出ていて、これ以上血が出たら死ぬ、と思う。
ここに留まるくらいなら死にたい。
あなたは目を閉じた。
その時、
また、
扉が、現れた。
それは
地獄に足を踏み入れた時と同じ扉
と、
違う、扉。
夢の内容と、似ていて私は気づいた。
“...いいんですか?お父様とお母様、おばあ様もこちらで楽しく過ごしていますよ?もう少しそちらで励んでみませんか?”
そんな声が、脳に伝わる。
私は首を振った。
脳内に響く声の主はため息をついた。そして、パチンッ、と指を弾く音がしたかと思えば、ひとつの扉は消えてしまった。残った扉は見知った扉だけ。
私はお礼を述べると、ドアを力一杯押し開いた。
早く、早く、彼の元へ!!!
走って中へ入る、と
空中に、ドアはあったようで、
私は落下した。
一方で、地獄の方では。
アダムが倒され、エクスターミネーションは中止、ホテル側の完全勝利を収めた。
しかし。皆の顔は、浮かない。
ホテルの家族を『2人』失った。
アラスターはラジオ塔の中に篭っていた。
切られた身体の前面、頬を引き裂く爪、その物理的な痛みは全く感じない。引き裂かれるように痛むのは、外傷など一切ないこの心臓部。
私を置いて、行ってしまった。
なぜ、手が届かなかった?なぜ、扉が現れた?なぜ、彼女は、ここにいない???
呼んでも彼女は、ここに居ない。
……あァ、そうか。
アラスターは笑顔を貼り付け影に潜るとチャーリー達のいる瓦礫の山に姿を現す。
みんな見ていたのだ。アダムの手を刺し、空から落ちていく所を。
しかし。
ガシャンッ!!!
アラスターの影の触手が、瓦礫を粉砕する。歪んだ笑みを浮かべるとハスクたちに向き直った。
バッと全員の注目を浴びるルシファー。
居心地が悪そうにルシファーは咳払いした。
ルシファーは上を指さした。上にあるの天国と、現世。
しん、と静まり返る。そんな中エンジェルは手を上げた。
「ーーーー……ーーーあーーー!ーーー」
ルシファーはふっと笑った。
あーーーー……ぁーーーー
……あ……あぁ……
空耳のようだった。幻聴かとも思った。
彼女の声が、聞こえる。
居るはずのない空を見上げると、全員が『あ』と大きな口を開けた。
アラスターは飛び出した。
触手の影を空に伸ばし、自身も影と一緒に移動する。
今度は、絶対、
掴まえる。
ドサァ...!!
思った程、衝撃なく、瞑っていた目を恐る恐るあけると、会いたくて仕方がなかった彼が私を抱え込んでいた。
あなたはアラスターに抱きつく。ゆっくりと地面に降ろされると、再度アラスターの胸に飛び込んだ。
アラスターはあなたの頬を触り髪を撫でる。そして、震える手であなたの肩や腰、首の形をなぞると、力強く抱きしめた。
泣き出しそうな程、声を震わせるアラスターにあなたは笑顔を見せる。そして、アラスターは気がついた。彼女の異変に。
あなたの右目は眼球が赤く染まっていた。アラスターがあなたの匂いを嗅ぐ。念入りに念入りに。アラスターは首を傾げた。
二人はお互いの頬に触れると口付けを交わした。
そして、ホテルの住人たちがあなた目掛けて一目散に走りだすと、ルシファーは遠目に彼らの様子を見つめる。
新たな住人を心から歓迎した地獄の王は静かに笑みを浮かべていた。
セラは本を閉じると、厳重な鍵を本に施した後、燃やしてしまった。
そう、あの扉の条件が揃ったとしても、媒介の、本が、今はもうないのだから。
はははははっ!
2人揃って笑ってしまう。
恋人になっても呼んでしまう『ご主人様』。
これらは愛の印である。きっとこの先も、この言葉は、彼だけに送られる。彼が旦那様になった時も、彼女は彼にこう声かけるのかな?
おしまい






















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。