どうやら、わたし、生まれ変わったようです。
それも、天下のSMエンターテインメントの、練習生に。
まだ現状が呑み込めないけど、とりあえず周りを見回してみる。
今わたしがいるのは床だった。
どうやら数人で共同の部屋を使っているらしく、周りには2段ベッドが置かれ、そこから寝息が聞こえてきた。
外はまだ暗い。
が、すっかり目が冴えてしまったので、わたしは身を起こし、バキバキになった身体を動かす。
ぶつぶつと独り言を言うと、記憶がぱっと蘇る。
…………………あぁ、そういうことか。
わたしの口に、苦い味が広がる。
わたしが生まれ変わったこの身体の持ち主、あなたの本名は、どうやら事務所でいじめられているらしい。
記憶の中にあるのは、
ダンスシューズを隠されたり、
トイレで水をぶちまけられたり、
練習に入れてもらえなかったり、
暴言を吐かれている、
そんな少女の姿だ。
会社全体からいじめられているらしく、トレーナーにも無視され、社員からは食事を抜かれたり寝床を用意して貰えなかったりと、随分手酷い扱いをされている。
その度に肩を落として、涙を流しているのも、見えてしまう。
言い返したり、反抗しない辺り、
どうやら気が弱い子だったようだ。
この子が、わたしに呼びかけてきたんだな。
ここから助けてくれ、出してくれって。
───夢も希望もない
───わたしが生きている意味だって、ない………
身体の持ち主の記憶は、いつだって悲愴に満ちていた。
だが、しかしだ。
今この身体には、わたしが生きている。
そう、圧倒的社畜で、重度のKQヲタクのわたしだ。
─────神様はわたしにチャンスをくれたんだ!
生まれ変わった。しかも韓国の練習生に。
つまり、KQのアイドルに会うチャンスが、与えられたんだ。
そう思うと、今にも小躍りして、全力でHALA HALAとか、Red Sunだって踊れそうだった。KQは振りの難易度エグイよね。そこが好きなんだけど。
ちょっと待て。
この身体の持ち主は、曲がりなりにも練習生だ。
それも、SMの。
つまり、
狭い部屋ではほとんど動けないし、音も立てられないが。
その割には、この身体は素直に動く。
どうやらある程度の実力はあるらしい。
記憶をほじくり出してみると、この身体の持ち主はボーカルが得意で、ラップとダンスもそこそこできるらしい。
どうやらあがり症のようで、月末評価の結果はあまり良くないが、それはどうにかなる。
なんたって、あの首脳陣や上司の前で、縮み上がりながら何十回プレゼンしてきたわたしだ。
あれ以上に怖い経験なんて、絶対ない。
──────話が変わったな。
これは、KQエンターテインメントに入るしかない。
こんなクソ事務所さっさと辞めてしまおう。それでKQに入って、毎日推しのご尊顔を眺めるんだ。夢が広がって地球規模を突破しそうである。
──────俄然やる気が湧いてきたぞ。
生きる目標を見つけ、わたしは頬が上気するのを感じた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!