夜の8時過ぎ
長い長い一日の職務を終え、
やっとのことで家まで辿り着く。
帰ったらあなたが出迎えてくれることだけを希望に
今日一日中あくせく働いた。
もうすぐにでも抱き締めてキスして
あなたの手作りのご飯食べて(あーんしてもらって)
一緒に寝るんだから。
あなたからの「おかえり」を期待して、
俺は「ただいま」と玄関の扉を開けた。
一気に身体中から抜け出ていく高揚感。
目の前の信じられない光景に
思わず手にしていた荷物を床に落とす。
玄関の床に倒れ込んでいるあなたに
慌てて駆け寄って、
声を張り上げながら体を揺すった。
あぁもうなんで、
なんでこうなるんだ
朝まではいつも通りだったのに
毎回ほんの少し離れてただけで
俺の知らない間にこんなことが起こる
あなたは俺の呼び掛けに返事をしないが、
脈は正常だし呼吸もあった。
ただ眠っているように見えるけど、
目元や頬が涙に濡れ赤くなっている。
とにかく救急車を呼ぶために
スマホを取り出そうとした時、
床に何かが転がっていることに気付いた。
それは幾分か年季の入った
小さなテディベアのストラップ。
こんなもの、あなたは持っていただろうか。
ひどい胸騒ぎを覚えながらも
自分にはどうすることもできない。
救急車を呼んで彼女が目を覚ますのを待つしか
今の俺にはできることがないんだ。
あなたが病院のベッドで目覚めたのは
それから丸2日経ったあとだった。
あなたの体内から
何かしらの毒物が検出されたわけではないが、
基準値オーバーの強力な睡眠薬を
希釈せずに直接注射されたらしい。
その睡眠薬の成分は
以前 Alley から押収したものと全く同じ。
要するにあなたに睡眠薬を注射したのは
Alleyの人間だった。
ここ最近の事件と関連づけてしまえば、
自然に犯人像として浮かび上がるのは
たった一人なわけで。
まだ状況が掴めていないといった様子で
あなたはゆっくりと辺りを見渡す。
それから数秒と経たず、
突然何かを思い出したかのように
あなたはバッ!と身を起こした。
俺の服にすがりつく勢いで
物騒なことを叫ぶあなた。
肩をそっと押してベッドに寝かせようとするが
彼女はひどく何かに焦っている。
どうしても安静にしてくれないあなたに
困っていたところで、
俺と同じく仕事終わりのユンギヒョンが
病室の扉を開けて入ってきた。
ギュッと俺の服の裾を掴んだまま
そう尋ねるあなたは震えていて、
ユンギヒョンはほんの数秒沈黙する。
そして、重々しい口調で答えた。
「2つ」という付け加えられた言葉が
あなたを打ちのめしたようで、
彼女は抑えきれなくなった涙を零して
俺の服に顔を埋めた。















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。