真冬
学校
真冬視点
昼休みの教室は、相変わらず騒がしい。
俺は窓際の一番後ろの席で、机を拭いていた。
三回目。
これくらいでいいだろうと思っても、手が止まらない。
少し離れたところで、女子たちが集まって話している。
その輪の中に、彼女がいた。
…またか
笑い混じりの声。
慣れているはずなのに、胸の奥が少しだけ重くなる。
俺だって、好きで避けてるわけじゃない。
溶け込みたい。
普通に、話したい。
でも、うまくできない。
その声で、空気が変わった。
女子たちが一斉に彼女を見る。
はっきりした声だった。
心臓が、一瞬止まった気がした。
……優しい?
彼女は少し困ったように笑う。
それ以上、誰も何も言わなかった。
話題は別のことに流れていく。
俺は、机を拭く手を止めたまま動けなかった。
……見てたのか。
俺のこと。
放課後。
廊下を歩いていると、前から彼女が来る。
俺は反射的に壁側に寄った。
距離を保つ。
名前を呼ばれて、足が止まる。
一瞬、言葉が詰まった
そんなふうに言われたことは1度たりともなかった。
彼女は、俺に近づきすぎない。
触れない距離で、そう言った。
それだけで、息がしやすくなる。
彼女が続ける。
……本当のこと。
小さく言うと、彼女は少し驚いた顔をしてから、笑った。
彼女が去った後、俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。
教室に戻る。
相変わらず、俺の席の周りには誰もいない。
でも。
さっきまでと、同じじゃない。
もし、明日彼女が休んだら。
もし、話しかけてくれなくなったら。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
……嫌だ。
誰にも聞こえない声で、そう呟いてしまった。
気づいた時には、もう遅かった。
彼女が笑ってくれた教室だけが、
俺の居場所になり始めていた。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。