『単刀直入に言うと、記憶喪失です。貴方。』
そう、医者から言われた。
悲しみも焦りも何もない。
ただ、この状況に説明がついて安心している。
『貴方がなったのは解離性障害の中の解離性健忘。そしてその一つの全般性健忘ですね。これは自分が体験した全ての事を忘れてしまう症状です。
まぁ今度しっかりこれ以上に説明しますね。
原因は何かなどなど…それは思い出さなくてもいいんですがね。
あぁ、不安ですよね。でも大丈夫です。
今からまた関係を構築していけばいいんですから。』
『そういう物は極稀ですよ。脳震盪起こして記憶喪失ですから超やばいです。』
『名前、言っといた方がいいですかね?担当医ですし…』
…まただ。自分の名前を言われるとノイズが懸かる、そんなに俺は思い出したくないのか?
医者…なのに金髪でインナーカラーも入れている。なんだこいつ。
注意されないのか?
………………
記憶喪失…かぁ…
原因は、なんなんだ?
頭を強く打った訳ではない。そしたらこんなにピンピンしてないし……
『長谷川先生!?なんでまだ染めているんですか!?戻してくださいって言いましたよね…!?』
病室の外で看護師さんの声が聞こえる。やっぱ無許可なんだ…よくそれでやってこれたな。
『別にいいじゃないですか~患者さんの命に関わることもありませんし~医者なんて皆████じゃないですか。』
………うん、聞こえなかったふりをしよう。
少し待つと、俺の家族…だろう人がやってきた。
多分、家族構成は、弟、姉、母、父、俺かな……
『私のこと覚えてる?』『どうして?』なんてことを聞かれるが覚えてないんだから何も話せない。
めんどくさいなぁ…
名前も思い出せない奴が家族なんか覚えてないよ…
ちょっと喋ったらまた来るねと言い帰ってった。
今日は面倒くさいから誰とも話したくない…
さっきので疲れた…
そういや、友人も来るって言ってたな。
来ないでくれ…疲れた…
どんな奴なんだろう。
うるさくない奴がいいな…
と思った瞬間
『████~~~~~~~~!!!!』
『大丈夫!?!?!記憶喪失マジ!?!?!』
あぁ…面倒くさ…
多分こいつが俺の友人だ。
なんで俺はこんな奴と関わってたんだ…?
クソうるさい…
『うぇ!?!なんか言った!!!?!?』
『………そうか、とりあえず僕のことも忘れてそうだし自己紹介!!!』
不思議な奴だ。
少し喋られただけで分かる。
めっちゃ髪の色派手だし…染めてるよなぁ…
言えない。
分からないなんて。
記憶喪失だからそうだろうけど…
ノイズがかかって聞こえない。
どうしよう、
単刀直入に名前が分からないんです。
って言ってもいいけど…
それだとさっき名前を呼んでたし
説明がつかない……。
ノイズ音が聞こえるなんて言ったら
引かれるだろうし…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!