🐶side
フィリックスと別れて、
町のはずれの方へ足を進める。
「ボンド」のことを聞かれた時は
一瞬ドキッとしたけれど、
僕たちのことをバディという名前で表してくれたヒョンジナに、少しだけホッとした自分がいた。
それなりに頼りにされているのかも、と……
ヒョンジナの言葉に見上げると
その視線の先の方向の空は確かに明るかった。
天気が崩れるのだろうか
少し不穏な空を不気味に思いつつ、2人で並んで歩く。
と、
ヒョンジナが突然足を止め、目を閉じた。
そう言うと、
一体何が聞こえているのか分からずにいる僕をよそに、ますます集中を高めていくヒョンジナ。
突然手を引かれ、転けそうになる。
ヒョンジナの表情はもうすでに真剣そのもので、
声の主に思いを馳せているように見えた。
──今日も始まりそうだな……
そう察したぼくもまた、集中を高め
これから直面するであろう場面に気を引き締める。
何か決定的な声が聞こえたのか、
ヒョンジナの足取りが一層早くなった。
僕たちが進むと共に
さっき見た空の明るさはどんどん増して、
ついには煙のようなものに視界が遮られる。
手が触れているから、
彼の中で焦りが膨れ上がる様子が伝わってきて
思わず声を上げた。
会話をする間もどんどん前に進んで
ついに目の前がバっと開けた。
そこには、丸ごと火に包まれた小さな集落が──
赤く燃える塊
その勢いは凄まじいもので、
その手前にはなんとか逃げてきたであろう人達の影があった。
今も、この光景の中で苦しむ人の声が
届き続けているのだろう。
ヒョンジナの表情は悲痛だった。
すぐにでも駆け出しそうなヒョンジナを手で制しながら、僕は、今持てる全てのエネルギーを集結させてヒョンジナに語りかける。
簡単なガイディングだけど、
まだ理性を保っているヒョンジナにはしっかり届いたようで、強い頷きが返ってきた。
触れた手をゆっくりと離した。
ある程度の距離までなら、
何とかヒョンジナの力をコントロールできる。
僕が気をつけて見ておけば危険はない。
必死に声をかける彼の姿を横目で捉えながら、僕も声をかけていく。
大きな火傷を負った老人が、僕たちに声をかけてきた。
自分の服の裾を引きちぎって応急処置をするけれど、
火の中からどんどん逃げてくる人で周囲は溢れかえり
2人ではどうにもならない状況だ。
消火隊の到着があと10分後だとして、
それまでヒョンジナが耐えられるか──
この混乱した状況では理性を保つことは難しいだろう。
最悪の事態を避けるために、一度この場から離れることに決めた僕は、近くにいるはずの彼の姿を探した。
先ほどまでそばで声をかけ、
共に応急処置をしていたはずのヒョンジナが
見当たらない。
少し先で座り込む家族の側にも、
立ちすくんでいる人の側にも、その姿はなかった。
もしかして、と思い
未だ燃え盛る火の方へと近づいたところで
その様子をじっと見つめる彼の姿をとらえた。
──まずいっ…
そう思って声を上げた時には、もう
ヒョンジナの体は火の中へと消えていった。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!