会場内は、先ほどの姉弟喧嘩の余韻がまだ残っていた。
今は崩壊したフィールドをセメントスが直している途中だ。
そう言って、リカバリーガールは自身の目の前にある椅子を指差した。
海斗はあきらめた顔で、リカバリーガールの前にある椅子に座った。
体育着で隠れていたが、捻った足首は青く腫れ上がっていた。
リカバリーガールが個性をかけると、痛々しい足首はみるみる回復していく。
そして私もリカバリーガールに怪我を治癒してもらい、2人で控え室まで行った。
ガララ
スゥ
そして、あっという間に準決勝。
私は、震える両手を握りしめてフィールド内に足を踏み入れた。
まだ、あの時の罪悪感が残っていた。
そして、あの家に戻されるのではないかという恐怖も。
正面から、そう呼ぶ声が聞こえた。
恐る恐る前を見る。
おかしいな。
今までは恐怖と罪悪感で押しつぶされそうだったのに。
「姉さん」
焦凍の口から出てくるその一言を聞くといつも
全部、怒りに変わるんだ。
罪悪感も、恐怖も全部、どうでも良くなって
その代わり
悍ましいほどの怒りが体の中に入ってくる。
あぁ、勝てる。
勝てるよ
これなら。
焦凍は動かなかった。
まっすぐ私の目だけを見て。
そう呟くと、焦凍は右手を大きく上に振り上げた。
目の前が凍りついていく。
だが不思議と、それは遅く見えた。
私は、自身の右側から赤く煌めく炎を出した。
調節は効くが、今は遠慮をせずに
今出せる最大出力で________
ブワッ
なるべく右から出ているということを悟られないように調節だけはしながらね。
焦凍が腕を一振りしただけで出た大きな氷の塊は、
私の炎の熱さによってあっという間に溶け切った。
私はその後、素早く行動に移した。
焦凍の周りを囲うようにして炎を動かした。
焦凍は氷の壁で炎を消そうとするが、私の炎の方が一枚上手でね。
その氷壁もあっという間に溶かしてしまう。
そう挑発すると、炎の勢いをさらに増した。
その言葉を最後に、
私は炎を焦凍に集め、火の温度を少し下げて燃やした。
ドサッ
倒れた焦凍からは、少しばかりの湯気が立っていた。
ワァ!!
会場は大盛り上がりだった。
フリフリ
その後、私は怪我をしていなかったので控え室へ向かった。
ひとまず、席に座って深呼吸をした。
次に戦うのは誰だろうか。
たしか…トーナメント表で今戦ってるのは…
常闇くんと爆豪くん。
どっちも実力のあるヒーロー志望。
大丈夫かな…。
カタカタッ
天井にある通気口の蓋が音を鳴らした。
ガチャンッ
蓋が開いた。
私は立ち上がってかまえた。
その時、外から歓声が聞こえてきた。
試合が終わったのだろう。
ゾムは歓声が聞こえると、フードを深く被り直して通気口の蓋を拾う。
あとはお前のタイミングで。
そう言い残して、通気口の中へ消えていった。
決勝戦。
私はフィールドに上がる。
目の前には爆豪くん。
ゾムさんの予想は当たったんだな。
お互いにまっすぐ見つめ合いながら、ミッドナイトの合図を待つ。
私は即座に大鎌を手に出し、構えた。
爆豪くんも両手を広げて低姿勢になると、バチバチ、と音を鳴らして攻撃準備を始めた。
ピリピリした空気が漂う。
” 表社会から存在を抹消し、裏社会で両手を血で染める覚悟 ”
その言葉が、私の中でこだましている。
表社会から存在を抹消するということは、戸籍を消すこと。
私の存在が、もともと無かったことになるということ。
そして、裏社会で両手を血で染める。
それすなわち。
人を殺すということ。
私はこの学校に、ヒーローを目指して来たんじゃない。
身体能力や、応用力を身につけにきただけにすぎない。
軍人になる覚悟を決めろ、私。
こいつは、最初から謎の多いやつだった。
初日から半分野郎に「俺の姉だ」とか言われてやがるし
こいつの弟の青髪の殺気や気配察知能力は高校生の域をとうに越えてやがった。
そして何より。
こいつたまに口調がコロッと変わりやがる。
まるで人が変わったかのように。
普通のあいつなら無関心、感情を表に出そうとしねぇ。
でも、たまに出てくる別のあいつは戦いが大好きらしい。
大人の女のような口調で非道なことしやがる。
それに。
” 殺されちゃった! ”
弟の青髪の言葉も引っかかる。
この戦いで全部吐かせる___!!!
No side
スタートの合図からしばらくの沈黙。
お互いがお互いの隙を狙っている。
それに、少しも動いていないわけではなく
あなたの下の名前が左に一歩移動すると、爆豪もそれに合わせて左に一歩移動する。
この距離を保つために、又は隙を作るために
少しずつ、ジリジリと動いて様子を伺う。
最初に動いたのはあなたの下の名前。
再び横に移動するように見せた左足を一瞬で前に出して地面を蹴った。
その一歩で半分まで距離を詰める。
その詰めに瞬時に反応し、一歩後ろに下がった爆豪。
次のあなたの下の名前の攻撃を予測する。
大きく前に詰めたあなたの下の名前は、右足を地面につけると宙に浮いた反対の足で勢いをつけて体を回転させた。
大鎌を横にむけ、しっかり構える。
狙いは脇腹。
目の前で一回転する行動を予測できなかった爆豪は一瞬の遅れが生じる。
その隙に回転がかかって勢いのついた大鎌の柄の部分が爆豪の脇腹へ入る。
ドカンッ
あたりどころが良かったのか、そのまま場外へ飛ぶことはなかったものの、地面に勢いよく衝突した爆豪は痛みで震えた。
その隙にあなたの下の名前はもう一度距離をとる。
ゆっくり立ち上がると、少し離れたところで大鎌を構えるあなたの下の名前の姿を視認できた。
場外へは飛ばなかったものの、しっかり入った脇腹への攻撃。
ダメージはでかい。
その時、あなたの下の名前の何かがぷつりと切れた音がした。
途端、目からハイライトが消えた。
これが軍人?
殺すことだけが…仕事なの…?
ゾムは他にも何か言ってた…。
思い出した…!
” 表社会から存在を抹消し、__ ”
表社会から存在を抹消する…!
戸籍ごと存在を消すってこと。
そうした方が、動きやすいから。
裏社会で、動きやすいから。
潜め。隠れろ。目立つな。
もしかしてあの時、ゾムさんは______
” 1位を取るな ”
って言いたかったのでは…?
雄英高校の体育祭は大規模で、有名だ。
そんなところで1位なんてとったら…。
顔を知られるなんてところじゃ済まない。
名前、住所だって知られるかもしれない。
個性も研究されるかも…?
いけない…。
まけなきゃ
私は手に持っていた大鎌をしまうと、そのまま場外の方へ歩いて行った。
ワアアアアアアアア!
会場は歓声で包まれた。
私は後ろをチラリと振り返る。
絶望と驚きが混ざり合った、爆豪くんと目が合った。
これでいい。
スクロールお疲れ様でした!
しばらく更新してないのは大変申し訳ございません💦
資格が…ちょっと…
取りたい資格がありまして…その勉強に勤しんでおります…。
その合間を縫って少しずつ文章は書いていくつもりです!
これからも投稿頻度は下がると思いますが、なるべく3ヶ月はあかないように気をつけますのでぜひお気に入り登録をしてお待ちください!!
それではまた次の話で!!












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!