司は、私に限りなく近づいてきた。
苦しい言い訳を、七峰はあっさり振った。
ほんっとわけわかんねー!と笑う日向を七峰は持っていた本で叩いた。
司がいつの間にか、さっきよりも近くにいた。
───……ねえ、
ぎしりと、私の中のなにかが軋む音がした。
───……おねがい
蘇ってくる記憶を否定する。
ゆらりと、私は完全に『那岐宮黎佳』の姿を保つことをやめた。
その姿を見た七峰と日向は、絶句する。
どんなに、醜い姿なのだろう。
蔓が三人に絡みついて、離せなくする。
目も開けられぬよう。
私は久しぶりに境界へ逃げ込んだ。私以外入ることのできない、まるで監獄のような境界へ。
─────ねえ、バケモノさん。
─────おねがい。
─────もう、限界だよ…
─────だからさ。
『私を食べて。代わりになってよ……っ』
もう、あの子の顔も思い出せない。なんて言ったら嘘になる。だって私は、あの子の皮を被っている。
でも、傷ついた顔も笑った顔も怒った顔も喋り方も全て。どんなだったか忘れた。
私の笑い方と喋り方があの子の顔をしていて。記憶が混濁していった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。