青⇄赤
見慣れた後ろ姿が目に入る。
途端に胸は高鳴り、気付けば彼に声をかけていた。
僕の声に振り返った彼は、一瞬驚いて、はにかんだ。
突然、彼の後ろから現れた見慣れない青い人。両手に2人分の飲み物を持っていて、その姿に、彼の表情は綻んだ。
…見たことがない表情だった。
柔らかい声、穏やかな雰囲気、どれも、僕にはないものだ。
まだ、名前さえも知らないのに、僕はこの人を受け入れられるような気がしなかった。
心拍数が上がる。それも嫌な上がり方をして、不安な気持ちが表情に漏れてしまいそうだった。
黒い気持ちが渦巻く。
『 ”そう”じゃなければいいのに。 』
眩しく、幸せいっぱいに、彼は笑った。
けれど、僕は、身体中にめぐる毒のような醜い感情に蝕まれて、そんな彼の笑顔さえも、歪んで見えた。
心臓が、うるさいほど存在を主張して、それでも「なんでもない」ことを装うため、無理矢理、口角を上げた。
はにかんで、頬を染める。彼は嬉しそうに、その恋人とやらを見ていた。
彼の背中が小さくなっていく。けれど、僕には、そんな彼を呼び止めることなど出来ない。
例え、彼が一切許さなかった手を繋ぐ行為を、彼らがさも当たり前のように行なっていたとしても、僕はその様を呆然と見つめることしか出来ないのだ。
…そうして僕は、孤独になった。
僕の隣は君だけのものだったのに、君の隣はもう、僕だけのものじゃ無くなってたんだと考えるほど、渦巻く愛憎は膨らんでいった。
恋を着飾った君を「可愛い」と褒められないならば、
僕はもう、君を友達とは呼べない。
僕じゃない誰かを求めた君にとって、まだ僕は、ただの友達だっていうのに。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。