彼と話す時間が格段に減った。
特に、去年までは一緒に過ごしていた連休や記念日も、彼は予定があると言うので、遊ぶことも無くなっていた。
けど、どうせその予定ってのは全部、”恋人”とお出かけすることなんだってことくらい、僕でもわかる。
外で見かけたら隣にはあの人がいて、何気なく連絡した時もあの人と会話中だったりして、今まで独り占めしてたのに、なんて思ってしまう自分が情けない。
大切な人なのに、君の恋が上手くいかないことを望んで、君があの人と喧嘩をしたと聞くたび、「よかった」って心のどこかで思っている自分が許せない。
ゴールデンウィークとか、お正月とか、そう言う休日も、全部、君の隣で過ごしてたのに、最近は普通の日でさえ遊ぶことはめっきり減っていた。
今年のクリスマスも、その恋人と過ごすのかなあと去年までを思い浮かべては息が詰まっていた。
今にも溢れてしまいそうな思いが爆発したのは、久しぶりに君から誘われて行った買い物の最中だった。
無愛想に返事をして、わざと目を合わせないようにしてたのに、君はその視界に入り込んでくる。
あざとくて、僕が好きな仕草。
俯いて、眉を下げて、自信なさそうに弱々しく言葉を吐いた君。
「そんなことないよ」とはいえなかった。
だって、最近、僕と遊んでる時でもあの人から連絡が来たら僕なんて放ってそっちに夢中じゃん。
だって最近、君のする話、あの人のことばっかりじゃん。
だって最近、買い物する時ずっと、あの人に似合うとかあの人とお揃いにしたいとかばっかりじゃん。
だって、最近、君は僕に、「今日の服どう?」って、聞いてくれないじゃん
思いがけず、そう言ってしまった。
予想外の言葉だったのかフリーズ状態になっている君を置いて、心の声をついにこぼしてしまった僕の声は収まることを知らず感情のままに言葉をつづける。
止めないと、そうは思うのに、僕の意志にさえ体は言うことを聞いてくれない。
気付けば僕は泣いていて、歪んだ視界に捉えた君は見開いた目でこっちを見ていた。
納得したように、何かがストンと心に落ち込んだ。
君が望むものと、僕が望むものの違い。
僕と君の関係と、君のあの人の関係。
何もかも、同じにしちゃいけないものだと、気づいてしまった。
僕は君の隣を独り占めしたかったけど
君は僕に隣にいてほしかっただけだった
君の右隣に僕がいるなら、左側は僕の席じゃない。
欲張りな君は、友達と好きな人を、どっちも選んだけど
欲張りな僕は、2つある君の隣を独り占めしようとした
君にとって、友達と好きな人は、一緒にはならないものだった。
友達として出会わなかったら、僕は君の恋人になれただろうか
たとえば、君の好きな人になれたとして
それは、本当に僕が望んだ関係なんだろうか
多分、違う。
君が君である限り、僕の望む関係はできない。
友達とか恋人とか、僕にとってそれはただの口実や称号でしかなくて
ただ、僕は、彼の1番でいたかっただけだった。
あれから、僕らはあの日のことを忘れたように、いつも通り過ごした。
別に忘れてなんかないし、記憶にこびりつくように残ってるけど、彼は気にしてないのかその日のことをいじってくることもあった。
でももう、彼があの人と話していてもつらくなんてないし、むしろ上手くいってほしいとさえ思っている。
だって、君の右隣は僕のものだし、君の友達としての1番は僕だけだと知ったから。
賑やかな街と煌めくイルミネーションが眩しい今日は、12月24日、クリスマスイブだ。「明日は恋人と出かけるけど、今日はほとけっちと遊ぶ!」と彼がいつのまにか予定を決めていた。
白い息を吐いて彼の姿を待つ。
すると、遠くから軽快なブーツの足音が聞こえて来て、振り向くと、そこには目一杯おしゃれした彼がいた。
彼は、あざとく笑って、僕に言った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。