第70話

全国大会 ー嘘ー
143
2018/11/02 13:57
楓side
楓
(よしっ…!凛、決勝進出!)
私は、選手招集場所から凛の準決勝を見ていた。そして、その結果に安堵し胸をなでおろした。
龍
良かった良かった。無事、凛は決勝進出だな!
楓
…龍…!と、宇根っちも!
同じく、招集場所で凛の準決勝を観戦していた龍と宇根っちがこちらへ来てくれた。
颯斗
颯斗
…そうだな…まあそのぶん、俺らにはプレッシャーというものがのしかかってくるんだけどな
龍
うわぁ…それを言うなよ、宇根っち!
冗談ともいえない表情で宇根っちはそう告げた。






そんな話をしていたら、凛が帰ってきた。
凛
おお〜!みんな!
楓
りーん!決勝進出おめでとう!
凛
アハハッ!ありがと!
無事に走り終えた凛の顔は晴れ晴れとしていた。

彼女の中で、最もいい走りができたのだろう。
颯斗
颯斗
…伊藤、そんな呑気に話していていいのか?
楓
…へ?
……折角、凛と喜びを噛み締めていたのに突然宇根っちが話しかけてきた。
楓
呑気にって…どういうことよ
颯斗
颯斗
…お前の準決勝次だろ…早く行かなくていいのかって話
楓
あ、ああ!
ほんの少しだけ、宇根っちの表情に焦りが見えていたのはそのせいか!
楓
んー、ま、大丈夫大丈夫!
凛
大丈夫っていえば…右足はもう平気なの?
楓
…げ
……隠し通そうとしていたんだけど…やっぱり、ダメか…

ここはもう、正直に話しておくことにした。
楓
んー、まあちょっとだけ痛いけど。風華の適切な処置のおかげで、だいぶ痛みは引いてきたし
凛
…ほんと?ほんとに本当?
楓
うん!




……嘘。本当は、走るとなると結構痛い。歩くのはだいぶマシになったけど…

ピンバッチはマジで痛いわ…
凛
…信じるよ?
楓
…大丈夫だから!心配しないで!
一瞬、ためらいはしたものの、全然平気(嘘ですが)だから嘘を貫き通すことにした。
凛
…よし!それじゃあ、いってらっしゃい!!
凛は力強く頷くと、右手を高々と上げた。

私は何だろうと思いつつも、すぐにその意図を理解し、右手を上げ────
パチンッ!
気持ちいい音がするほどのハイタッチを交わした。
楓
…頑張ってくるね
凛
くれぐれも怪我には気をつけて!
龍
2位以内に入ればいいんだからな!そうすれば決勝確実に行けるから!!
楓
……意外とそれ、ハードル高めなものなんだよ?
龍
…そうか?w
2人と他愛ない話をした後、そろそろ向かおうとしたら…














颯斗
颯斗
……伊藤
楓
…ん?
宇根っちが話しかけてきた。
楓
どうしたの?
颯斗
颯斗
…………
宇根っちはわざわざ私のそばまで来て…耳元で囁いた。
颯斗
颯斗
…無理はするな…お前、怪我結構ひどいんだろ?
楓
…!
見事に宇根っちに見破られてしまった。
颯斗
颯斗
…本当は止めた方がいいんだろうけど…お前は絶対聞かないだろうし、だから──…
颯斗
颯斗
…“無理はするな”
宇根っちはそれだけ言うと、私の言葉も聞かずに凛と龍の元に帰ってしまった。



……大会に来てから宇根っちがだいぶ変わってしまった気がする…なぜ?

私は不思議に思いながらも、準決勝へ向かうことにした。

プリ小説オーディオドラマ