第19話

凛×千切 「右足」
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2026/03/27 07:00 更新
冬の空気は、やけに澄んでいた






























グラウンドの白線が、やけにくっきり見える































千切は、一歩も踏み出せなかった



























千切豹馬
……


























膝が動かない





























いや、動かせる。だけど……“怖い”




























あの日の音が、まだ耳に残っている




















































ブチッ






























あの…嫌な音。





























千切豹馬
……ははっ、ダサ…
































一人で笑う





























笑っていないと、崩れそうだった






















































_____その時



























糸師凛
まだ逃げてんのか




























背後から、低い声




























振り返らなくてもわかる






































千切豹馬
……凛
糸師凛
見てりゃわかる





































糸師凛は、いつも通り無表情でそこに立っていた





























けど、その目だけが____やけに鋭い












































糸師凛
走れんだろ、お前
千切豹馬
……走れるよ
































即答だった






























でも、足は一歩も出ない





























凛は一歩近づく









































糸師凛
じゃあなんで立っている
千切豹馬
……



































答えられない






























言葉にしたら、全部壊れる気がしたから













































糸師凛
……怖いんだろ

























静かに言われて、胸が締め付けられる




























糸師凛
また壊れるのが
千切豹馬
ッ……


























否定できなかった




























悔しくて

























視界がにじむ


























千切豹馬
別にッ……いいだろ
































やっと絞り出した声は、“震えていた”




























千切豹馬
もう一回壊れたら、終わりなんだよ
千切豹馬
俺ッ…、サッカーしかないのにさ
千切豹馬
それ失ったら…マジで何もない…























































千切豹馬
だから…もういいんだよ







































糸師凛
………は?












凛の声が低くなる
















糸師凛
良いわけねぇだr
千切豹馬
いいんだよッ!!
千切豹馬
わかんねぇだろお前にッ、!!
糸師凛
……
千切豹馬
全部ッ…失う怖さなんてッ!!




























































糸師凛
……あぁ、わかんねぇな
糸師凛
俺はそんなダセェ逃げ方なんてしねぇからな
千切豹馬
ッ……、
























胸に刺さる、痛いくらいに



































糸師凛
逃げて、守って、それで満足か?
千切豹馬
満足なわけッ、
糸師凛
じゃあなんだよ
























凛がぐっと距離を詰める






























糸師凛
お前の走り、死んでんぞ



























その一言で…何かが崩れる



























涙が…溢れる



























止めようとしても、無理だった



























糸師凛
……悔しいくせに
糸師凛
まだやりたいくせに
千切豹馬
っ……
糸師凛
俺と、戦いたいくせに



























その瞬間



























心の奥に押し込んでいたものが、全部引きずり出された




























千切豹馬
……やりてぇよ
千切豹馬
サッカー…やりたい
千切豹馬
走りたいッ…全力で…
























千切豹馬
でもッ…




































千切豹馬
“怖い”んだよ…ッポロポロ

























涙が止まらない



























グシャグシャで…格好悪くて…

























千切豹馬
もうッ…、壊れたくないッ、ポロポロ
























































































































千切豹馬
……ぇッ…、?
糸師凛
黙って聞け









































糸師凛
壊れたら、その時考えろ
千切豹馬
……
































































糸師凛
今から壊れるかどうかなんて、やってみなきゃわかんねぇだろ
千切豹馬
ッ…、
糸師凛
……それでも
糸師凛
それでもお前が怖ぇなら…


































































一瞬言葉が止まる






























ほんの少しだけ…声が揺れた










































糸師凛
……俺が…“隣で走ってやる”
千切豹馬
っ…!?



































































































凛は、まっすぐこっちをみていた



































逃げも…嘘もない目










































糸師凛
お前が止まっても…
糸師凛
引っ張ってやる
千切豹馬
………
糸師凛
……だから、



















































一歩離れて、手を差し伸べる















































糸師凛
来いよ

























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