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第4話

少しの善意
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2026/02/28 15:08 更新




ヨレンタ
あ、あの、私は…!








まずい。これは、非常にまずい。


ヨレンタは血の気の引く思いで、必死に思考を巡らせていた。


見つかった。


拷問の跡が残る、こんな顔で。


どうしよう、どうしよう__。




恐怖と緊張で震える手を握りしめて、ヨレンタは目の前に立つ、髪の長い女を見上げる。


あなた
………


女はこちらに火を近づけて、警戒の色を示していた。
 

ヨレンタ
わ、私は、先日この街にやってきた巡礼者です。


ヨレンタ
土地勘が無く、道に迷っていたらこの森に…



考えつく限りの説明を、彼女はなんとか絞り出す。 



それを聞いた女は、ゆっくりと蝋燭をヨレンタから遠ざけ、小さく頷いた。


あなた
そう。確かにあなたは、山賊や盗賊の類ではなさそうね。




女は一歩後ろに下がり、籠から取り出そうとしていた果物ナイフを手放す。


このナイフの出番がなくてよかったと、心底ほっとしていた。

ヨレンタ
は、はい。
私はただの迷い人です…!


一方のヨレンタも、信じてもらえた安堵から、再び肩の力を抜いた。

あなた
では、この森から抜ける道を教えるわ。
もうすぐ夜も明けそうだから。


面倒事は早く片付けたいと、女はヨレンタを手招きする。

ヨレンタ
……!


「本当ですか。ありがとうございます。」


ヨレンタが、そう言おうとした時。

ヨレンタ
……いっ!!


歯茎から、耐え難い痛みを感じた。


一時的に止まっていたが、また出血し始めたのだ。
 
あなた
__!?
あなた、怪我を?


突然苦しみだしたヨレンタに、女は驚きを隠せないまま駆け寄る。


そのまま、蝋燭で彼女の顔を照らした。
あなた
……歯が抜けてる。

ぽつりと呟いた女に、ヨレンタは冷や汗がどっと噴き出る。

ヨレンタ
え、えぇ。
これは……その。



息も絶え絶えに、胸から心臓が飛び出そうなほど、鼓動が速くなるのが分かった。




どこからどう見ても、拷問跡にしか見えない傷。


降り積もる違和感に、女が気付かないわけがない。



ヨレンタ
………




__もう、だめなのだろうか。


私は、ここで終わる運命なのだろうか。


ヨレンタは、女に告発される覚悟を決めた。


 
手をきつく握りしめた、その時__。


あなた
あ、あなた、本当に大丈夫?


女は、戸惑いながらヨレンタに問いかけた。
ヨレンタ
……は。


自身を心配するような声音に、ヨレンタはあっけにとられる。




今すぐにでも、あの審問所に引っ掴んで連れて行かれると思っていたのに。


「こいつは魔女だ」と告発されると思っていたのに。

あなた
……?
早く手当てをしなくちゃ、傷が悪化するわ。


女は怪訝そうにヨレンタを見た。
ヨレンタ
な……なぜ、何もしないんですか。

無言。


凪いだ表情で、女は話の続きを促す。

ヨレンタ
つ、通常なら、他に尋ねたいことが山程あるでしょう…!


ヨレンタは、明らかにワケアリな自身の姿を見ても尚、何も言わない女が不思議で仕方なかった。


女が口を開く。
あなた
あなた、困っているでしょう。

優しい口調に、ヨレンタは大きく目を見開いた。
あなた
だから、

女が歩き出す。


向かった先には、川の側に立つ馬がいた。
あなた
言うなら、少しの善意から、かな。
ヨレンタ


__少しの、善意?
あなた
私についてきて。
多少の手当てはしてあげる。

馬を連れて歩き出した女を、ヨレンタは驚きの目で見つめる。


そして、木の幹から立ち上がった。
あなた
私はあなた。
それで、あなたの名前は?

歩きながら話すあなたに、ヨレンタも応える。
ヨレンタ
わ、私はヨレンタと申します。

森のさらに奥へと進み、あなたの持つ蝋燭の火がゆらゆらと揺れた。
あなた
……そう、ヨレンタ。 

あなたはヨレンタを振り返り、小さく笑みを浮かべる。
あなた
ここから歩きづらくなるから、足元に気を付けて。
ヨレンタ
は、はい。ご親切にどうも。


ぺこりと頭を下げながら、ヨレンタは思った。



まだ若い自分は、このままだとほぼ確実に命を落とすだろう。


家も無い。金も無い。お父様以外に、頼る人もいない。


さらに自分は、異端者のレッテルを貼られた女ときた。

ヨレンタ
(今ここで、このチャンスを逃すわけにはいかない。この人なら、もしかしたら……)


目の前を歩く背中を見つめていると、生い茂る草木がだんだんとひらけてきたことに気付く。
あなた
ここは木に隠されて、そう簡単には見つからない。安心していいよ。

あなたの言葉に頷きそうになったヨレンタは、ある違和感により目を見開いた。
ヨレンタ
え、あ、あの、見つからない・・・・・・って……どういう。

あなたは少し困った顔で馬を撫でる。
あなた
その怪我を見たら分かるわ。

少女を覗き込む瞳には、哀しげな色が滲んでいた。
あなた
逃げてきたんでしょう。どこからかは知らないけどね。


嘘を吐くのが苦手。 


人を欺くのが苦手。


よく純粋だと言い表されるが、まさかこんなところで裏目に出るなんて。 



冷や汗をかいて黙り込んだヨレンタに、あなたは続けて語りかける。
あなた
私も、逃げてきたの。
ヨレンタ
……逃げて、きた?


彼女は顔を上げた。あなたは頷き、目を閉じる。

あなた
えぇ、幼い頃にね。
あなた
だから私も、あなたの気持ちが理解できる。
あなた
手を差し伸べてあげたいと思う。






綺麗事だ。






ヨレンタは正直、そう思った。


思い出すのは、自分を逃がしたあの異端審問官。


ヨレンタ
………




__彼のおかげで、私は今、生きている。



ヨレンタ
あなたの言う通りです。
私は森を彷徨っている。



今本当に必要なのは、その綺麗事・・・だ。



ヨレンタ
必ず恩は返します。だからどうか、私を匿ってくださいませんか……!



ヨレンタは、藁にも縋る思いで頭を下げた。












【おまけ】

今回はバデーニさんです。


二枚とも自信作なので、良かったら!













    













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