第11話

#11 新政府と英雄の帰還の時
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2025/07/18 10:45 更新
1952年5月、日本の命運を決する総選挙は終わり、いま、民の手によって選ばれた政権が誕生しようとしていた。
絶海の前線・済州島で任務を全うしていた二人の英雄も、ついに帰還する。
――すべては、“自立”という国家の理念のもとに。
東條真一
…あらかた引き継げたな。後はOKで良さげだな。
村上綾乃
…お疲れ様。これで本土に帰れると考えれば少し寂しくも感じるね。
霞が関の選挙速報室に、夜を貫く開票作業のざわめきが続く。

全国各地から次々と届く票は、次第に一つの方向を示していた。

「民政自立党、予想を超える大躍進です!」
「自由党の保守分裂組も協調に転じ始めた模様!」
最終的な議席数は、民政自立党が単独では過半数に届かないものの、
自由党の穏健派や他少数の党と連携することで、議会内過半数を確保。

与党連立政権の中核として、民政自立党が日本の新たな舵取りを担うこととなった。
岸信介
…そろそろ帰ってくるころか。
マスコミも張り付き始めたしいよいよか。
空奥深くから一筋の雲が降りてきた。
その銀色の飛行機は、"英雄達が旅立つ際に使った戦闘機"であるのは確かだ。
岸信介
東條君、村上君…"英雄達の帰還"…か。
澄んだ初夏の空。
銀色の機体が羽田上空へと差し掛かる。

機内。
村上綾乃は、ヘッドホンをつけて音楽を聴いていた。
流れていたのは、日本語に翻訳された米国ジャズ、穏やかなサックスの音。
戦闘機で通信をしつつ曲が聴けるというのは平時の特権だろう。
東條真一
…あそこにいるのは噂の"新首相"か?
村上綾乃
岸さんが手を振ってる!
東條真一
…村上、少し曲芸するぞ。
村上綾乃
んえ?
言葉の意味を理解する前に、機体は急角度で左旋回し、ぐい、と身体が浮く。
続いて一気にバンクしながら背面飛行――機体が天地をひっくり返す。
村上綾乃
わぁぁぁぁちょっ真一!?
東條真一
岸さんが手、振ってるぞ。我々としても応えなきゃな
再び、急降下からのスローロール。
機体は地上10メートルほどまで低空をかすめ、羽田の滑走路を這うように滑る。
地上の岸信介が、小さく笑って右手を高く掲げて振った。
その手に応えるように、東條は操縦桿を斜めに引き、銀の機体を太陽に向けて一回転させる。
村上綾乃
…ほんとにびっくりした…もう…
だがその目には、怒りではなく、
どこか安堵のようなものが浮かんでいた。
機体はそのまま、静かに着陸体勢へと入る。
重力が戻るなか、東條はゆっくり息を整えつつ、ぽつりと呟く。
東條真一
これが“帰還”だ。
世界に見せつけてやらなきゃな。国家の意志を、空で。
1952年5月20日、東京・羽田。

午後、零戦が着陸すると、そこに静かに整列していたのは、民政自立党の議員団と自衛隊儀仗兵。
報道陣は中には呼ばれておらず、迎えはあくまで控えめだった。

だが、東條と村上が地に足をつけたその瞬間、
隊列の奥に並んでいた若き自衛官たちが、一斉に敬礼を送る。
村上綾乃
…最初の頃に済州島に居た隊員もいるっぽいね。
東條真一
…彼らには感謝だな。
1952年5月21日。
歴史が静かに、しかし確実に動いた。

国会議事堂。
正面に掲げられた日章旗が、春の風に揺れる。

前日の開票を経て、民政自立党は単独過半数には届かぬものの、旧自由党の一部(岸派など)や中小中道政党と連携し、院内過半数を掌握。

この日、日本国民の手によって選ばれた“民による政治”の初内閣が、正式に指名・発足される
衆議院本会議場には、政党幹部、議員、報道陣、各国外交団などが見守る中、厳粛な空気が流れていた。

開票結果に基づく各党協議の末――
第52代内閣総理大臣には「岸信介」が指名され、天皇陛下からの形式的任命を以って、正式に“岸民政自由党内閣”が発足する。
衆議院議長:「それでは、岸信介君を、内閣総理大臣に指名いたします」
場内に、どよめきと、拍手が混ざる。

だが、東條真一の席は一つ奥にあった。
彼は国会議員ではなく、内閣直属政務情報調査室の特別顧問。
自身は“民に選ばれた者”ではないことを、彼は誰より自覚していた。
壇上に立った岸信介は、静かに演説を始めた。
その言葉は、過度な理想ではなく、敗戦から立ち上がる国家の現実的覚悟に満ちていた。
岸首相
この政権は、理想からではなく、現実から始まる。
我々は敗戦国であり、占領を経て、いま再び、自らの手で国を動かそうとしている。
我々は否定されても、国家の誇りは否定されてはならない。
民が選び、民が支える政治、それを我々はここに樹立する。
その後、余韻が引き落ち着き出した所にとある電報が届く。
東條真一
村上綾乃
ねぇ!これは本当の情報なの!?
東條真一
…これはありえる。
五島市沿岸部から50キロ、当時我々がいた済州沿岸から30キロ地点にしらつゆのブラックボックスが見つかった。
陸自及び海自技術部に再整備してもらい、中宮くんにメモリーテープを解析、修繕してもらった。
中宮新野
メモリーカセットテープなんて初めて触りましたよ…
何となく解析しつつ聴きましたが、お三方の必要とする"重要部分"は掴めてそうですね。
部屋の中心に置かれたのは、旧式ながら改修されたリール式磁気テープ再生装置。
隣に並ぶのは、海自・陸自共同整備部隊が一晩かけて慎重に復元した黒く無骨な録音装置――護衛艦「しらつゆ」から引き上げられた“沈黙の証人”であった。
そうして再生される。


「……艦長、前方四十度、不明艦……接近中。艦旗確認、これは……」
「赤地、金の五芒星…八一…人民解放軍、海軍所属ですッ!」
村上綾乃
…!
止めて!
中宮新野
はい…視認ミスがなければ人民軍というのは出ました。
村上綾乃
人民解放軍の攻撃なら…完全に敵対行動ではないですか!
当日に聞いた感じ"朝鮮工作船の可能性大"と聞いた。
本当は"人民軍の攻撃"となると本格的に国際問題ですよ!!
東條真一
…落ち着け。
中宮君。続きを。
中宮新野
は、はい。
「中国艦、機関銃斉射!明らかに敵対行動です!艦長!攻撃許可を!」
「…戦闘許可を取らねば。誤認だと国際問題になってしまう。一旦耐え…」
「射線、右舷に集中……やばい、来るぞッ!」
そうして機器が震える音、爆発音、船員の悲鳴が聞こえる。
「被弾! 艦首に被弾!! 浸水確認! 第三区画、閉鎖急げ!!」
「敵影、東北より小型艇多数……! 接近、速い! 朝鮮語、これは北だ! 北朝鮮の……っ!」
「包囲されてるッ! 四方八方に……うわあああっ――!」

ボンッ!!
ズガン――ッ!!!

爆発音が走り、断続的に金属が裂けるようなノイズが続く。
傷つくテープの様子も、これほどの音が起きるほどならわかる物だ。
人の叫び声が、遠ざかるように消えていった。

「……敵………艦隊、しら……たえ……」

最後には水の浸水する音、機器の壊れる音と共にテープが止まった。
中宮は、再生を止めた。
やや呼吸を整え、冷静に口を開いた。
中宮新野
最終的な結果、本件は“偶発的失踪”ではありません。明確な奇襲攻撃、かつ、二方面からの敵対行動です
第一攻撃は中国人民解放軍海軍所属艦艇、第二攻撃は北朝鮮の特殊小型艇と推定されます
録音から確認される通り、双方の動きに“連携性”がある可能性もありますが、これはまだ仮説段階であります。
米内光政
……つまり、“先に撃たれた”ということだな。公式には、我が国の艦が沈められたという、極めて明確な交戦行為。
村上綾乃
これは報復を求める者が出る。世論も揺れる……公表すべきか、統制すべきか
東條真一
我々は、これを“真実”として残す。だが、“叫び”にしてはならない
怒りは使えるが、煽りに堕ちては民が壊れる
今、この国はさらに進化しようとしている。戦いより前に、守る形を築かなければならない
中宮新野
こちら、最終書類です。総理にお渡しする準備は整えております
東條は頷きながら、一枚だけ抜き取り、目を通す。

その最後には、こう記されていた。

《護衛艦「しらつゆ」失踪事件の真実は、"明確なる中国・朝鮮の敵対行為により爆沈。新防衛力の必要性が大きい》
東條真一
…そうか。
今度、新型ジェット機の見学に石川へ行く
中宮君、着いてきてくれ。村上は土産物買ってくるから待っててくれ。
村上綾乃
ちぇ…
次回、蒼い鷹のジェット。公安の力

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