44 9月3日③
レオリオとゴンの覚悟を確認したキルアは
軽くため息を吐き、立ち上がった。
ゴンに携帯電話を出させ、同じように操作するよう
指示をしながら説明を始めるキルア。
ス……
そう言うキルアの瞳の奥から光が消える。
五体行のひとつ、"絶"という技を見てレオリオは
驚きと同時に、並外れたキルアの気配断ちに感心した。
あなたという名前を聞き驚きながらまくし立てるレオリオ。
キルアの肩を揺すりながら唾を撒き散らすレオリオに
キルアは目を瞑りながら耐えた。
_…
再度、連絡の取り合いの確認をした二人は
その場から駆け出していった。
まただ。
また、あの夢だ。
煌めく水の中で
自由に泳ぐ人魚の影。
綺麗な歌声…_。
喜びも、哀しみも、
あの声にのせて伝えてくれてる。
あれ?いつもはここら辺で夢が終わるのにな…?
ふと、振り返った人魚と目が合う。
『………………。』
私の目を見て微笑む彼女。
なんでだろう。
会ったことがないのに、懐かしい感じ…。
もしかして…、私の…
声を掛けようと発したが、言葉が泡になるだけで
私の声は出なかった。
咄嗟に喉を抑える。
今まで声が出なかった、なんてことはなかったから。
焦った…。
もし、声がなくなったら、わたし…
『…………………。』
揺らめく尾びれを光らせながら
海面に上がっていく人魚。
自分の意思とは関係なく、まるで場面が変わるように
わたしは気づいたら海面に立っていた。
〜…♪
近くから聞こえた歌声に顔を向けると、
海岸に二つの影が見えた。
ぐったりと倒れる男性に尾を貸し、彼を寝かせる人魚。
空の下で歌う人魚姫の、なんとも言えない美しさに
私は息を呑んだ。
自身の尾に彼の頭を置き、ぴくりとも動かない
愛しき人を見つめながら歌う彼女。
慈愛に満ちた瞳から大粒の涙が彼に降り注ぐ。
愛しあえていたはずの人との別れ。
それなのに、なんで…………………
自然と声が出ていた。
自分にしか聞こえないくらい小さい呟きだったのに
離れた場所で歌っている彼女と目が合った。
『…_わたしが消え去っても、歌は響きつづける…』
『…この意志は、きっと受け継がれてゆくわ…_』
『私は見つけた。…わたしの幸せを…』
『_…だから貴女もきっと見つけてね。』
『自分だけの答えを…_』
そう言う彼女は彼の唇に自分の唇を重ねた。
その瞬間、温かな光が彼女を纏い、
光が拡散していくと共に泡となって彼女の姿が消えていった。
『…………………ん、』
目を覚まさなかった男性が、ゆっくりと起き上がった。
"ひとり"、知らない場所にいたのを不思議に思ったのか
周りをきょろきょろと見回している。
私の方にも目を向けているはずなのに、彼は気づかない。
そして、彼の目が一点の空を捉えた。
光る泡がふわふわと男性の真上に留まっていた。
私にはアレが泡となって消えた人魚姫だというのは分かっている。
でもきっと、彼には分からない。
人魚姫が貴方を生かす為に、自らを犠牲にしたことも。
そして…愛していたことも。
互いに愛していたのにその思いを伝えられずに
二人は会えなくなってしまう。
悲劇の恋。…………………
『…………………。』
黙って泡を見つめる青年が、フ…と笑いながら口を開いた。
『俺も思っている…ずっと、ずっと君を…』
彼のその言葉を聞くととどまっていた泡が
その言葉を待っていたかのように大海原へと吹き抜けていった。
叶わなかった、訳じゃなかったんだ…。
人魚姫は、ちゃんと
好きな人と愛しあえていたんだ。
たとえそれが悲劇だと言われても
共に生きてゆけなくても
あの二人には確かに
愛があったんだ…。
_… 『私は見つけた。…わたしの幸せを…』
愛する者を、守り抜くための力。
それが「人魚の涙」…。
はぁ…はぁ…
全身の神経をとがらせて浅くなる酸素を肺に送る。
一瞬でも気を抜くと相手が振り向くかもしれない。
嫌なイメージを想像してしまう。
ゴンと一緒に旅団を追って半刻が過ぎた。
奴等もただ歩いているだけじゃない。
常に尾行を警戒しているのが俺なら分かる。
多分それが日常なんだろう。
だからこそ変化がわかりにくい。
あなたの行方も気になるってのに…
いや、今はこっちに集中しねぇと。
でも…………………
ヤバい…………………
どんどん人気のない方に移動してる。
数十メートル先を行く標的は
歩みをとめることなく淡々と進んでいく。
罠なら即脱出。アジトならもう少し追う……
…ポチョ、
地面を触る手に汗が滴り落ちる。
ヒョォォォ…
風が窓のない建物内を吹き抜けてゆく。
人気のない廃ビルに囲まれた中庭に立つ男女のペアは
あたりの気配に気を配りながら立ち尽くしていた。
腕組みをしながら自分たちを付けてきた連中が
いまだに姿を現さないことに首をかしげた。
あたりを探る中、マチの問いかけに答えるノブナガ。
持っている鞘袋を見つめるノブナガ。
マチに自分の考えを否定され少し声を荒げながら聞く。
周りを見渡すマチ。
表情ひとつ変えず「勘」というマチの横顔を見て
ノブナガはため息を吐いた。
──…
一方、尾けていたゴンとキルアは建物の中から
マチとノブナガのいる中庭を見下ろしながら
小声で連絡を取り合っていた。
変化のない旅団を見て、持久戦になるかもな。
と予期したキルアはため息を吐いた。
ピルルルルルル
ふいになった携帯音に、キルアは心臓を鳴らす。
目をやると男の方がポケットから携帯を取り出していた。
緊迫した空気が纏わりつく。
ピッ、
そう言ってゴンと通話を切った。
ドクン、ドクン…
すぅ…
身体の緊張をほぐそうと、一回だけ深呼吸しようとした
その瞬間だった
バヂッ
ダッ!!
間違いなく俺たちの場所を把握した目とあった。
頭が逃げろと信号を出す前に
自然と身体がその場から走り出していた。
ザッ
部屋の出口に別の男が立ちはだかっていた。
もしこいつらに捕まったら…
いくら俺たちが子どもでも
相手はあの幻影旅団_…。
タダで帰してくれる保証はどこにもねぇ
最悪、ここで殺される場合だってある…!
ドクン、ドクン…
汗で湿った手を服の裾を掴んで拭う。
──…『キルア!』
_…ハッ
頭に浮かぶあなたの顔。
その瞬間全力で部屋の中を走り回った。
逃げるんだ、絶対に。
あなたが待ってる。
ガッ!
ビュッ!
右足を捕まれ体勢を崩されたが
その隙に手に持った石つぶてを相手に投げつける。
それも最も簡単に全て避けられてしまった。
のは、計算づくだ…!
ヒュ…!
相手の死角へ左足を飛ばすキルア。
ガッ
スピードも角度も完璧だった蹴りを
ノーダメージで止められたことに驚くキルア。
ガッ!!
両足を捕らえられたキルアは両手を床に突き立て
目一杯の力を入れて身体をよじらせた。
ギリ…、ミシ…ッ
ギャオッ、ブチブチッ!!
フィンクスの手を振り解くため
足に回転をかけ振り切るキルア。
その際に掴まれていた箇所の肉を
フィンクスにちぎられてしまう。
キルアの捨て身の行動に思わず口笛を鳴らすフィンクス。
引き千切られた両足首からは痛々しく血がでていたが
今のキルアには痛みを感じている余裕はなかった。
扉ではなく窓から現れたノブナガの存在に
驚くキルアは、挟み撃ちにされてしまい立ちすくんだ。
自分よりも遥かに強いと確信ができる相手に挟まれ、
成す術をなくしたキルアは静かに目を瞑り
一緒に捕まってるであろうゴンと、
そして、行方の分からなくなったあなたの顔を思い出していた。
to be…













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!