寝室のドアを開けると顔の赤い兎と目が合った。
いつもキリッとしている目はとろりと溶けていておでこに冷えピタがはられている。
ごほっと咳をして鼻声で兎は喋り始めた。
兎の頭をがしがし撫でながら言う。
数十分前、俺はグループLINEに"紫くん熱出たから俺の家来て"とラインを入れた。
するとすぐに既読がつき"秒で行きます"と青い猿から返信がきて、各メンバーもそれに続きメッセージが送られた。
俺の時はすぐに既読つかないくせにと不服に思っていると可愛くないくしゃみが部屋に響く。
北極なわけないだろと思いながら上から兎に覆い被さった。
半年前から付き合っている俺たち。
付き合った理由も兎が無理して風邪引いたからだった。ひょろひょろの体でどこ行くのやら見守っているといきなり倒れた兎。
これがきっかけって言う訳じゃないけど今まで溜めていたコップが溢れたみたいに兎に恋に落ちた。
真っ赤な顔、うるうるな目、掠れている声、いつもこの先の何もかも見透かした瞳をしているのに、行先もない困りに困った瞳をしている兎をみて守りたいと素直に思えた。
今の彼が半年前の彼と重なる。
どんどんと玄関から結構なボリュームの音がした。
息遣いが荒いメンバーをみるとなんだか笑えてくる。
ななにちゅっとキスをして玄関に俺は向かった。
もう駄作しか生み出せない
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。