とある御方が「娑婆道中」という言葉を呟いた
「それはどのような意味の言葉ですか?」と少々興味が湧いて問うてみた
汝、曰く
「人生を旅に喩えた時、必ずしも平坦で安全な道では無いのだ、様々な困難と苦境が伴うものである」
「……そう、まるで、我が人生、笑」
あぁ、なんで、どうして、自分を卑下するの……
「……莫迦には、茨の道がお似合いなんだ」
貴方を誰が莫迦と言った、誰が貴方を嘲笑うんだ、誰が貴方を……
あぁ、私達か
虚しくて笑ってしまう
莫迦げ過ぎて笑ってしまう
脱力して笑いが溢れる
辛魦廻を狂わせたのは、頼哭くん、貴方だよ
忘れようよ、あんな記憶
辛魦廻を頼って、皆を信頼して、ねぇお願い
私達と共に生きていこう
辛魦廻が胸に黒い蟠りを圧し固める度に、辛魦廻が重く瞼を動かす度に、辛魦廻が扇を翻す度に
夜が色を増していく
あぁ、貴方はあの煌めく星たちを抱く真っ黒な空のようだ、私達を狂わせる魔性の夜
私達をこの世界に留める健気な夜
そんな夜を乱す不躾な篝火を灯さなければならない
こんな屈辱があってたまるか、今からでも倒して壊して棄ててしまいたいのに
でも、そうしたら貴方の側に居れなくなる
この役目を放棄したら死が訪れる、あっけなく死んで天に召される、そんなの嫌だ
だから、こうして生死を繰り返して、死ぬ間際に皆の顔を思い出して、生き返る時に顔を見て安堵する
壊れて、捻れて、瓦解してて、腐りかけで、禍々しくて、ドロドロに融けて、鎖に繋がった在り方だけど
それのおかげで今まで関係を繋げてこれた
一つ目の篝火に、赤い炎が灯った
二つ目の篝火に、赭の火花が散った
三つ目の篝火に、臙脂の魂が宿った
四つ目の篝火に、紅葉の残り葉が燃えた
五つ目の篝火に、滅赤の命がくべられた
夜空とは真反対の赤い色達が、辛魦廻の神様への供物として燃え盛った
夜が深まる度に赤は彩られていく
早く夜明けに、速く夜明けへ
あの御方を早く辛魦廻達の元へ連れてきて
あぁ、どうして望んだものをいっぺんに手に入れれないんだ
貴方の顔が見たい、貴方に会いたい
でも、そのためには貴方の色をこの空から消し去ってしまわなければならない、それも嫌だ
ねぇ、貴方のために貴方を消すのがどんなに辛いことか、貴方には分かりますか?
えぇ、分からないでしょう?貴方はいつもそう
私は貴方が……
ははっ、なんでもないや、この言葉が一番貴方を苦しめてると知っているから直接言わないよ
六つ目の篝火に火が灯った
この世界にある「赤」を表す言葉どれにも言い表せない美しい炎
ねぇ、夜よ早く消えてくれ
貴方に、会わせて
夜明けの時、身体が火照ったように熱くなる、それは目覚めた太陽の蒸気のせいか
それとも……
果てしなく終わらないこの廻りへの怒りか
そんなの分からないけどさ
これだけははっきり分かってる
貴方がいつも小さく「御免ッ」と囁くこと
辛魦廻は、貴方が
大好きだということ













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!