なんとも、思ってなかったんだ。
なにに関してもあまり興味を持てなくて、みんなについて行けなくて。何を言われてても言われてなくても足を引っ張ってしまっているみたいで、地に足がついている感じがしなくて、生きている心地がしなかったの。
「よそばっか見てないでたまにはこっちも見てみない?」
にぱっと太陽みたいに笑ったきみが私の心を救ってくれた…なんて他の子にも沢山言われてるかなって、悲しくなったりもするけどやっぱりきみが一番なんだよ。
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「俺だけみてて」
悲鳴に似た歓声があがる。周りは人だらけでアイドルのライブを連想させる……なんて、そのアイドルのライブなんだけれど。そしてその人だかりにいる一人がこの私だった。目の前にいるのは私の推しの三枝くん…三枝明那くんである。
『やばいやばいやばい三枝くんかっこいい…!!』
ぶんぶんとペンライトを振ると太陽みたいに明るく嬉しそうに笑ってくれる顔とか。うちわに書いてある言葉を出来る限りこなそうとする姿とか、本当に大好きでたまらないんだ。私は彼のファン…いわゆるオタクをしていた。だってこんなかっこいい彼好きになるしかなくない?
「今日は絶対皆のこと楽しませるからーー!!!!絶対目逸らさないでねーーー!!!!」
甲高い歓声がまた上がる。ちなみに私も上げてます。一言一言に一喜一憂しすぎだって?当たり前じゃん!!生まれてこの方三枝くんに一生貢ぐと決めてました!!!!!
「___♪」
君の声が聞こえた途端、周りは静まって感動の涙を全国民が流したはず。生まれてきたことに感謝___。
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『今回も最高だったぁ〜……』
ライブが終わったあと余韻に浸って熱くなった頬をペットボトルの水で冷やすとひんやりとした感覚が伝わる。かっこよかった。今日も凄く、かっこよかった。彼の行動の合間に見えるファンを大切にしてるっていうのが凄く感じて物凄く、好きだなあって思って……。
「っわ、すみません…!!!」
『あえっ!?わ、私もすみま…って、え…?』
ぼうっとしているときにぶつかってしまった人。謝ろうとして顔を上げたとき、その人の顔が目に入って思わず固まる。だって、だってその顔は……
『三枝くん…?』
「やっばい…!!!ちょ、ちょっとまってこっちきて!!!」
『え!?!?!』
私が慌てている間にぐいっと腕を引っ張られてどこかへと連れて行かれる。まってまって三枝くん、だよね!?え、手掴まれて…!?!?
『あ、あの、三枝くん…?と、というかここ楽屋じゃ…私ここ来ちゃ駄目じゃない、ですか…!?!』
パチパチと目を瞬いても目の前にいる三枝くんに夢じゃないことに気づいて、信じがたい現実に__現実だと気づいたら脳が滅亡するため__目を覚ますためにも今にも逃げたくてたまらなくてドアの前まで下がると三枝くんが逃さないと言わんばかりに目の前に立つ。
「……やっと、見つけたあ…」
本物だ…と興奮した様子で言う三枝くんに困惑が止まらない。ど、どういうこと…?というか本物だはこっちのセリフなんだけど…!?!顔良!?スタイル良!?え声良!?性格良!?
「…あなたちゃん、ずっと会いたかったよ。会えてほんと嬉しい」
『っへ、え、あ、あの…??』
とん、と音を立てて私の横…ドアに手のひらをついた三枝くん。……いわば、壁ドンってやつ。
……ん?ここは現実かな?都合のいい夢かな?
妄想がいき過ぎてないかなこれは?
と思っていたら段々と近づいてくる顔。
良すぎる顔に目が焼けるのを感じる。そしてそれと同時に夢じゃないことが明らかにわかり、やっとその場から離れようとするも……壁ドンの力が強すぎて腕の中から抜けられなかった。うーーんナニコレ?
『…え!?!?!?ちょ、あ、あの…!!!』
「あなたちゃん、ほんとにだいすきだよ。…俺の一番なんだあなたちゃんは。」
汗が額をつたる感覚。現実は厳しい。ファンとアイドルのこんな姿なんか見られたらスキャンダルだって言われて三枝くんの舞台が見れなくなっちゃうのに何を言っているんだ三枝くんは…!!!!というか本当に現実…??
心は焦るのに手の中から抜け出すことが出来なくて、そのままそこにおどおどと立ち尽くしてしまう。
『…あ、あの、すみません!!人違いだと思います、それと三枝くんはそんなキザなこと言わな…』
「…本心だよ?」
「あなたちゃんのためなら沢山言える…んだけど、こういう俺は好きじゃ、ない…?」
不安そうに目を揺らがせて、眉をハの字にする三枝くん。
『好きですもちろんですすみません大好きです!!!』
推しを悲しませているという事実と言われた大ファンサに脊髄反射でそう答えると嬉しそうに三枝くんが頬を緩める。
あれ、これもしかして三枝くんの思うツボじゃ…
「よかった、あなたちゃんならそう言ってくれると思った…」
「あ!そうだ。連絡先交換しようよ」
『すみませんそれはちょっと無理です!!!』
普通は交換したいものかもしれない。けれど、三枝くんの舞台が見れなくなるのはごめんなのだ。
『…ありがとうございました今日も最高 でしたこの事はなかった事にしますというか人違いですさようなら!!!』
バッと三枝くんの緩んだ手の間から抜け出してドアの外に出て逃げ出す。
バクバクと心臓はうるさいままで、脳裏や身体に感じたものにあのことが現実だったとより実感させる。
三枝くんが私を探してた理由はわからないけどこれ以上無理に関わらないほうがいいはず…!!
『というか三枝くんなんて言ってくれてた…!?!?!』
急な出来事が沢山降りかかってきて忘れてしまった特大ファンサの言葉。
ちゃんと聞いとけばよかったと後悔してしまった。でも、もう会うこともないだろうしこの事は水に流そう。……そう思いたかった。
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「…あなた、ちゃん?」
呼ばれた名前。
それだけでファンサ。生きているだけでファンサ。目の前に驚いたような表情で立ち尽くしている三枝くんが居た。…けれど、それ以上に私が一番わなわなと震えていた。
『…さ、三枝くん……』
名前を呼んでしまう。
すると、三枝くんがキラキラと目を輝かせる。今にも飛びかからんばかりの三枝くん。ステイしよう、うん、ステイしよう?
頭はもちろん大混乱。貢ぐために始めたバイトの家政婦の仕事、久しぶりに長期で借り出されたと思えば目の前にいるのは間違いなく三枝くんだ。
「…あなたちゃん、会いたかった!!こんなに早く会えると思わなかったしかもこんな近くで…!!」
また嬉しそうに目を輝かせて、一歩足を踏み進める三枝くん。
その姿はまるで国宝。変な行動しててかわいい。オタクがでかける。やめてくれ。
『…えっと、オンオフはちゃんとするのでご安心を…!!!』
なんとか頭を切り替えてそう言うと、三枝くんが少し不満そうに口を尖らせる。
ファンサですか?やめてください爆発します
たまに入ってくる自分のオタクに堪えきれてないことを自覚し、ぐっと唸る。やばい、迷惑を…これじゃ貢ぐどころか本人になにか危害を与えかねない……。
…瞬間、手が掴まれた。
「あなたちゃん、好きだよ。会えて嬉しい……。」
「本当に好きだよ?一生…いや、永遠かけて俺のすべてで誓うほど。」
『…………、』
私のよく知る三枝くんはこんなキザで口説くようなことは言ってこない。
三枝くんは、優しくてそれでちょっと照れ屋で…三枝くんの熱い瞳が私の視界に入り込んだ。
瞬間、大勢のファンへのファンサだと思っていた今の言葉が私だけに向けられたものだとやっと気づく。
「……あなたちゃんの一番を俺に奪わせて?」
いつも通り三枝くんを見に来ただけなんです。
ファンだから、応援しにきただけなんです。
家政婦の仕事をしようとしただけなんです。
三枝くんへの貢ぎを稼ごうとしただけなんです。
その言い訳が聞かないって思うくらいまずい状況で、………視界が暗転した。
「あなたちゃん__!?」
私、ただの三枝くんのファンからちょっと近い存在になってしまうみたいです。
書きたい欲求を抑えきれず(あ)こちら短編集(segs彡)の長編版です❣️
息抜き程度だったり、活休中語彙力を下げないための保険として更新しようと
思いますお手柔らかに✊🏻♡また個人の都合により見にくい書き方してますご了承ください🙌🏻
好き勝手書くので人は選ばれると思いますが閲覧是非🥹💖












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。