大江知世が、嫌いだった。
ドジで要領が悪くて、いつも私に迷惑ばかりかけるあの子。
頭を冷やすために廊下に出た私は、ため息をついた。
あんなふうに感情的になるのはいけない事だった。
自動販売機でカフェラテを買った私は、九条くんに声をかけられた。
偶然用事があってうちの部署に来ていた彼は、さきほどのやり取りを見ていたようだ。
私は、大江と違って嫌いではないけれど九条礼衣という男が得意ではなかった。
柔らかな印象を与える立ち振る舞いに、穏やかで優しい笑顔。
その瞳の奥がひどく冷たいように私には見えた。
……不気味な優男。
彼と交際していた女性が立て続けに行方不明になっているという奇妙な噂があるのも怖いし、あまり関わりたくない相手だ。
九条玲衣はそのまま去っていった。
いつの間にか隣に立っていた彼に少し驚き挨拶を返す。
三崎朱夏。隣の部署の新入社員。私の2つ年下で、とても優秀だと噂を聞いている。そのきれいな見目にうちの部署の後輩たちが騒いでいたのを見た。
……そういえば、大江知世とも同い年だっけ。本当に、彼の爪の垢を煎じて飲んで欲しい。
何も知らない彼に、大江知世との出来事を説明するのは面倒だった。
こちらをじっと見つめたあとふいに微笑んだ三崎は軽く会釈をして立ち去っていった。
憂鬱な気分で仕事場へ戻る。
……最悪だ。
2ヶ月前まで付き合っていた彼は、別の女と二股した挙句開き直って私が悪いと言い出したクズだ。
別れたのにいつまでもこうして付き纏ってくる。
こんなの私の気を引こうとしているだけのくだらない妄言だ。
分かっているはずなのに、傷ついた自分がいた。
………。
キッと力強く彼を睨みつけた大江は私を庇うようにして、私と彼の間に立ち塞がった。
部が悪いと悟ったのか、田沼は小さく舌打ちをするとそそくさと立ち去っていった。
大江知世が嫌いだった。
でも今は嫌いってわけじゃ、ない。





















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。