ある日の休憩時間。
私は、九条くんの立ち去る背中を見送りながら眉を顰めた。
新年度になりたての初対面の頃こそ私は知世を嫌っていたが、今では私たちは先輩後輩の仲を超えて友人へなっていた。
共に過ごすうちに分かったことだが、知世は素直で感情が表に出やすい。彼女の好意は傍目から見ても分かりやすかった。
知世の恋路は応援したいところだが、いかんせん相手が悪い。
どう止めようか、と私が悩んでいると知世がにこにこと私の顔を覗きこんできた。
....田沼のことだ。
あれから時間も経って付きまとわれなくはなったものの、いまだに私の心に根深い傷を残していた。
視界の端で、はっと気付いて申し訳なさそうな顔で口を開こうとしていた知世が見えたが、私は振り切るように走り去った。
あんなやつ、放っておけばいい。
なのに、なんで私はもともと知世に渡すつもりだったチョコを九条くんに渡したんだろう。
.....決まっている。
私は結局知世のことを見捨てられなかったんだ。
私は休憩室を足早に立ち去った。
知世は入口で立ち尽くしていたからきっと私が九条くんにチョコを渡したのを見たんだろう。
友だち想いで優しい知世は、これで私のあとに九条くんにチョコを渡して告白をすることはない。よかった。
昼休みも終わりかけの頃、私のもとを訪れた彼の告白がきっかけで私は九条くんと恋人同士になった。
これで知世の身は大丈夫。そう思っていた。
......けれど、
その日、知世は行方不明になった。
きっと、私はあの時立ち去らずに知世の動向をきちんと見ておくべきだった。
知世は実家住みだ。
出勤してから帰ってこない知世を心配した家族は、その日のうちに私に行方を問う連絡をし、私はそこで知世の失踪を知った。
家族は翌日の15日に警察に届け出た。
15日から、九条くんは会社に来なくなった。
どうやら14日の退勤後、交通事故にあったらしい。
それから、1週間後。九条くんが目を覚ましたという連絡がきた。
連絡が来てから3日後、今日は九条くんが久しぶりに出勤する日。
私はエントランスで彼を待ち伏せていた。
九条くんが知世の失踪に関わっている可能性が高いことは、誰にも伝えられていなかった。
2人が恋人というのは推測だし、九条くんは周囲からの評判がいいから信じてもらいにくいだろう。下手に他人に話すことで私の疑念が九条くんへと伝わってしまい警戒されては意味もない。
私独りで、知世の行方を追うしかない....!
危険なんて承知の上だ。知世を諦める気なんかさらさらない。
エントランスへと九条くんが入ってきたのを見つける。
傍らの三崎朱夏と談笑している。
彼らが一緒に出勤するほど仲が良いとは知らなかったのでなんだか意外だ。
私は九条くんのもとへと足を踏み出した。





















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。