第8話

⛓️「幸せ」
28
2024/05/17 12:44
早く、しないと。
このままぐずぐずとこの世界ここに留まっていたら、きっと。
君のいない世界に、いや、私が君を殺したという事実に、耐えられなくなってしまうから。
正気に戻るな、私。
最後まで、狂ったままで。
そのために、早くしなきゃ。
でも、その前に。
 
私は、愛里の遺体に近づいた。
その顔は眠っているようで、生きていた頃と全く変わらず、美しかった。
それでも、愛里はもう、生きてはいない。
この世界の、人間ではない。
そっと愛里の頬に触れてみる。
 
冷たい、なあ。
君の体温は、私が奪ったんだけどね。
 
愛里の顔に自分の顔を近づけて、目を閉じて。
私は、愛里の唇に自分の唇を重ねた。
 
地獄に堕ちる覚悟はあります。
だから、最後くらい、許してください。
 
もう動かない愛里に向けて、そっと囁く。
_松原雅@まつはらみやび_
松原雅まつはらみやび
………………私も一緒に、地獄に堕ちてあげるからね。
 
これで、良かった。
きっとこれが、正しかった。
 
私は地獄で永遠に君の隣にいられて、君に奪われるはずだった幸せはこれからもそのままでいられる。
 
もう、この世界に心残りはない。
 
鍵はかけたから、防犯は多分大丈夫だし。
帰ってきたお父さんとお母さんが卒倒するかもしれないけど。
 
私は、ミルクティーの入ったマグカップを手に取った。
勿論、私の飲んでいた方ではなく、愛里の飲んだ、毒入りの方だ。
 
愛里愛しい人の命を奪った薄茶色の液体を一瞬見て、一気に口に流し込む。
そして、なんの躊躇いもなく飲み込んだ。
 
すぐに、体が痺れて、目眩がして、吐き気もしてきた。
それでも、君も同じ苦しみを味わったのだと思えば、もうすぐ君と同じ場所に行けると思えば、私はこれ以上なく幸せだった。
 
待っててね、あーいり。
これからはずっーと、永遠に一緒だよ。
永遠に、離したりしないよ。
言ってたよね、「どんな私でも愛してくれる?」って。
君は、私に愛して欲しかったんでしょう?
 
君は、幸せ?私と永遠に一緒にいられて、幸せ?
 
私は、すっごく幸せだよ。
これから行く場所が地獄とか、もうそんなのどうでも良い。
 
狂ってるかな、狂ってるよね。
 
嗚呼、どんどん意識が遠くなっていく。
死ぬんだなぁ、私。
 
私は、最後に残った力を振り絞って、愛里のところまで這った。
 
大好きな人の顔を見ながら死ねるなんて、私はなんて幸せなんだろう。
私の顔、どうなっているのかな。
きっと、笑ってる。幸せそうに、笑ってる。
その笑顔は、きっと、醜く見えている。
 
愛里の顔が、私が現世で最後に見たものだった。
 
罪深き君へ 完

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