蔓蓮華
氷でできた蔓が僕に向かってくる。
もう何度攻撃を防いだだろうか。こんなに"力"を使ったのは初めてだからか、体力の消費が多い。そろそろ限界が近付いてきている。
まだしのぶの毒は効かないのか。
今のところ弱っている様子はない。まだ時間を稼がなければならないようだ。
グサ
蔓が腹を貫く。蔓が抜かれ腹に穴が開き血が吹き出す。しくじった。
また追撃が来る。後ろへ飛びながら腹を押え左手に力を込める。
出血が止まる。傷がふさがっていく。
穴を塞ぐ肉を"創造"した。
初めてこんなことをした。こんなことが出来るならもっと前から使えばよかった。
火事場の馬鹿力のいうやつか。
鬼の周りに霧が発生する。あれも血気術か。
あの霧は吸ったらまずいだろう。なにか仕込んであるに違いない。
あの霧も風に乗ってこちらに来る。逃げるか?いや、僕にはまだ"力"がある。例え肺や他の臓器が壊れても再生できる。ここであの鬼を殺さなければ。
壁沿いに走る。刀をぶんっと振りかぶり、創造の力を込め鬼に向かいぶん投げる。
創造の力を込めれば刀は自由自在になる。左にいけと念じたら左に行くし、追尾しろと念じたら追尾する。刀を握って戦うのは、その方が早く対応できるからだ。
また蔓がくる。防ぎようがないため脚で蹴る。脚がブチッと千切れるが瞬時に創造する。
そこだ、刺せ!
鬼の死角から僕の刀が脳天を刺す。
それと同時に鬼の目玉がごろっと落ちる。
しのぶの毒がようやく効いたのか、鬼の体が溶け始める。
戻ってこい。
そう念じると刀は手の中に戻ってくる。
倒せる。しのぶのお陰だ。
霧氷・睡蓮菩薩
鬼が菩薩だと?ふざけるな。
氷柱が頭上に降ってくる。それを躱し本体へ走る。
またあの霧。少しだけ吸い込んでしまったが、もうなりふり構っていられない。
鬼のどろどろに溶けた首を斬る。
ズバッ
呆気なかった。え?と言いたくなるほど呆気なく終わった。
斬れた首は床にゴトンと落ちて、そのまま灰になる。
鬼の血鬼術によって作り出された菩薩が消える。
終わった。これで次に行ける。
血を吐く。まずい、肺がやられた。穴が空いてしまった。
ヒューヒューと肺から空気が抜ける。
どうしてここに。カナヲの息が切れている。走ってきたのか。
カナヲ達が走ってゆく。誰もいなくなったところで、再生を始める。
肺の穴は何とか塞がった。
刀を鞘に収め立ち上がる。
トン
誰かに背中を押された気がした。
後ろを振り返る。が誰も居ない。
胡蝶か。
バキッ
床が割れる。今度はなんだ。
音もせずに地上に放り出される。
あの城の血鬼術の鬼は死んだということか。
周りに鬼はいない。ここは住宅街のようだ。
遠くの方から悲鳴が聞こえる。そこに向かって走り出す。
まだ体は追いついてこない。もっと速く。
全力を出せ。
悲鳴に釣られるように走る。細かい傷から血が出る。
もうずいぶん長いこと走った。
人影が見える。あの白髪が無惨だろうか。人間化の薬が効いたのか、随分弱っているように見える。
甘露寺と伊黒が戦っている。もう傷だらけだ。
無惨、弱っていてもやはり鬼の王か。
伊黒の攻撃の後に続いて無惨の腕を斬りあげる。
こいつには首では無い弱点があるはず。日光以外に殺せる手段が。
例えば、心臓とか。
あるかなんて分からない。だが、探ってみる価値はある。
再生した無惨の腕をまた斬り脇腹を刺す。
何も手応えは無い。やはり弱点などないのか。
背中から鞭のようなものが生えている。
まずはこれを攻略せねば。
甘露寺と伊黒も絶えず攻撃をしている。
だがこのままでは死んでしまう。その前に。
炭治郎、それに義勇!
そんな。義勇、右腕が。
油断した隙に無惨の攻撃によって弾かれ、建物に背中から衝突する。
骨が折れたな。再生しなければ動けない。
よく見れば、伊黒と甘露寺には痣が発現している。義勇にも、青色の痣がくっきりと。
そんな。まさか。
再生を終え、刀に力を込める。破壊の力。もう破壊の力も残り僅かだ。身体が動かなくなるのも時間の問題だろう。
攻撃を防ぎながら近づき首を撥ねる。
もうこいつの首は再生出来まい。
無惨の掌に目が出現する。
それを刺して後ろに下がる。
実弥が走ってくる。
実弥にも痣が。
また無惨からの攻撃を受ける。まずい、肋骨が数本潰れた。
残りの力で死ぬ前に再生を始める。
なんとか死ぬことは無かったが、完全に再生するまで時間がかかる。
ゴボッ。
口から血が溢れる。
実弥は走っていった。僕は少し離れた場所に移動し心臓の再生を始める。
ここからじゃ戦場が見えない。
だが見える場所だと攻撃されてしまう。
愈史郎という鬼の話も珠世さんから聞いた。
便利な血鬼術だ。
血鬼術の紙を額にペタリと張る。
ジャックが飛び立つ。視界が共有される。
あの赤い刀はなんだ。伊黒の刀の色が変わっている。
甘露寺が無惨の腕を引きちぎった。どういう事だ。甘露寺のどこにそんな力が。
その反動で甘露寺が吹き飛ばされる。まずい。死んでしまう。
身体はまだ治らない。
早く、早くしなければ。
斬撃が伊黒の顔を直撃する。顔が潰れたように見える。
ジャックが愈史郎の紙を伊黒に貼る。
視界が共有される。
義勇と実弥も赤くなっている。
戦況は目まぐるしく変わっていく。
肋骨が全て治った。愈史郎の紙を剥がし僕は立ち上がる。
刀を手にまた走り出す。まだ治りたての身体が悲鳴をあげる。
伊黒と甘露寺が衝撃波によって吹き飛ばされる。
それを受け止めるように僕は下敷きになる。
二人を立ち上がらせ、僕は空中に跳ぶ。
もうすぐで夜明けだ。もうすぐで。
刀を投げようと構えたその時。
炭治郎が鬼にされた。一瞬だったが、確かに、炭治郎は鬼になった。
もう日が半分出ている。だが炭治郎は灰にならない。そんな一瞬で太陽を克服したというのか。
無惨に取り込まれる前に殺さなければ。
義勇がその場にいた全員に知らせる。
不味い事になった。
刀を握りなおし地上におり炭治郎へ向かう。首を一直線に見据え刀を構える。
炭治郎は小賢しく動く。刀を振っても避けるばかり。
禰豆子、人間に戻ったのか。僕は炭治郎の左手を斬る。
炭治郎の腕はすぐに再生する。
斬れない。首が、斬れない。
もうすぐ夜明けだ。このままでは炭治郎は完全に太陽を克服して人間に戻れなくなるかもしれない。
賭けに出る。炭治郎をガッチリ拘束する。腕の中で暴れ隊服はどんどん破れる。
腕が傷だらけになるが、血が出る前に再生する。
炭治郎に血の味は覚えさせない。刀を噛ませる。
隠が投げた薬を受け取る。液体だ。丁度いい。
機会は1度だけ。
腕力で瓶を割り炭治郎の口に薬を事流し込む。割れた容器が手に刺さり血が流れる。
炭治郎を突飛ばす。血は炭治郎には付かなかった。
炭治郎が白目を向いてガクッと膝から落ちる。
自分の羽織を日除けとしてかける。
もう太陽が地平線から顔を完全に出している。
無惨は。
無惨の体が灰になっていく。首からじわじわと、灰になっていく。
そのまま無惨が消滅するまで見届ける。
つま先が消えるまで悲鳴は止まなかった。
悲鳴が止まった時、僕は膝から崩れ落ちた。
手の傷口から血が吹き出す。
勝ったんだ。
我々は勝ったのだ。
灰さえも完全に消えた時、僕は目から大量の涙を流した。傷口に染みて痛い。
よろよろと近寄ってきた義勇を抱きしめる。
まだ意識は戻らないらしい。もう体は人間に戻っているはずだ。
実弥はそばの道で横たわっていた。駆け寄ると、右手の指が切断され血が出ている。急いで隠を呼び救護してもらう。
実弥の意識はない。だが脈はある。気絶しているだけだ。
生きている。
僕の大事な二人は生きている。
案内されたそこには、抱き合った二人がいた。
伊黒と甘露寺は、帰らぬ人となった。
最後まで抱き合ったまま死んだのだ。
僕が炭治郎の相手をしている間に。
看取ってやれなくてごめん。
天国で幸せになってくれ。そう祈る。
解放感か疲労かは分からないが、そのまま僕は意識を失った。
次に目が覚めた時は、見慣れた天井の下、ベッドに寝かされていた。
ゆっくりと目を開ける。窓から射す光が眩しい。
実弥と義勇が僕の顔を覗き込んでいる。
僕と目が合うと、2人して涙目になって。
義勇が走って部屋から出ていく。
生きててよかった。確かに実弥はそう言った。
ああ。泣けるんだな。僕のために、泣けるんだ。
身体は動かない。まだそこまでは回復していないようだ。"力"の使いすぎだろう。
遅くなってごめん。
撫でてあげられなくてごめん。
実弥は僕の手を握ったまま泣いている。
泣かないで。そう言いたいのに口は上手く動かない。
ドタドタと足音が聞こえる。アオイ達か。
義勇も僕の手を取り泣いた。
まるで子供みたいに。
僕は愛されているんだな。
その後はアオイに色々と質問され、薬を飲み眠った。
眠ったと言っても三十分ほどで、ずっと眠っていたせいか寝れなかった。
実弥や義勇に色々と話を聞いた。
炭治郎の意識はもう戻っていて、歩けるほどになったこと。だが左手は使い物にならないこと。
ここでの食事の量も少なく、美味しくないこと。薬が苦いこと。
宇髄も輝利哉様と一緒に指示を出していたこと。
輝利哉様。立派になって。僕はまた泣きそうになる。
まるで三人で暮らしていた時のように沢山話した。懐かしくて涙が出る。
死んでいってしまった者たちの為に、僕らは幸せにならなければならない。それが次の任務だ。
実弥と義勇は痣が出た。あと生きられて4年ほど。
4年も生きられるか怪しかった。2人は重症だし、義勇は片腕を失っている。
それでも、少しでも幸せになろう。
やっと満足に歩けるようになって、食事も普通のものになってきた時。輝利哉様のお屋敷で最後の柱合会議が開かれることになった。
鬼殺隊は解散だ。僕らの居場所も、ついに無くなってしまう。
実弥と義勇は、いつか僕を置いて逝ってしまう。
いつか僕は一人で、二人のいない世界を歩んでいくのか。
そう思うだけで泣きたくなる。
もう一生着なくなる隊服を着る。
羽織も新しくして。破れた箇所も直してもらって。
玄関で待っている二人も、真新しい隊服に身を包んでいる。
髪をちょいちょいと弄ぶ。
歩き出す。ゆっくりと、平和を確かめるように。
愛する2人とともに。もう少ない日々を生きていく。
手を繋ぐ。
義勇の左手、実弥の右手。
風が吹く。髪が揺れる。
愛してる。
第12話
終わり
まだ最終話まで何話かあります













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!