🧡side
あんなことがあった次の日からも、変わらず大ちゃんとはメンバーとして仕事現場で顔を合わせている。変わったのは、大ちゃんから距離を置かれるようになったということ。
こんな状況で僕から大ちゃんに近づくことなんてしないけど、大ちゃんはグループでのお仕事中も、まるで僕のことが見えていないかのように僕を避け続けるようになった。
そしてメンバーも少なからず僕と大ちゃんの この異様な空気感に気づいているようで、皆 僕たちの顔色を伺うように話すことが多くなった。
僕が大ちゃんや他の皆を振り回している自覚はあったし、一刻も早くグループの雰囲気を元に戻さないといけないって焦っていた。
僕にとっても大ちゃんにとっても他のメンバーにとっても、グループでの活動は何よりも大切なもの。僕のくだらない理由で壊すわけにはいかない。
頭では ちゃんと分かっているのに、大ちゃんに話しかける勇気が持てない。
''僕は大ちゃんのこと好きでもなんともないので、元通りの関係に戻ろう''なんて言うのは あまりに直接的すぎるし上目線すぎる。なんなら今より関係が悪化しかねない。
YouTubeの撮影が終わっても、事務所のテーブルで大ちゃんへの言葉を考えながらぼーっとしていると、遠慮がちに大橋くんが声をかけてきた。
大橋くんの言葉で、お仕事にも影響を出してしまっていることに気がついた。いてもたってもいられなくて、僕はソファーから立ち上がる。部屋を見渡しても、そこに大ちゃんの姿はない。
そうや、大ちゃんは仕事終わったらすぐ帰るタイプやった。僕は部屋を飛び出し、静かな廊下を急いだ。
少し先に大ちゃんを見つけて声を掛けようとしたけど、大ちゃんは事務所の後輩と話していて僕は思わず立ち止まった。
ここからじゃ、大ちゃんの声は聞こえへん。会話の内容を聞こうとしてたのに、そんな事よりも2人の距離感が気になる。
確かに大ちゃんのことを尊敬している後輩の子やし、大ちゃんも その子を他の後輩とは違う目で見ているかもしれへんけど、距離近すぎなんやない…?
また 勝手な独占欲が芽生えてきて、慌てて頭を振った。大ちゃんが誰と仲良くしようと、僕に口出しする理由はないって思って この場を離れようとしたとき、相手に笑いかける大ちゃんの姿が視界に入って動きが止まった。
どうしようもないモヤモヤに心を埋めつくし始めてやっと気付いた。
そう気づいてすぐに悲しくなった。こんな感情 抱いちゃあかんのに。ただのメンバーでいなくちゃあかんのに。
他の子に嫉妬して自分の気持ちに気づくなんて、僕はなんて鈍感な奴なんやろう。
立ちすくんだ僕の ぼーっとした視線に気がついたのか、大ちゃんは ゆっくりとこっちを見た。
相手にそう伝えた後、大ちゃんは まっすぐ僕を見る。
今大ちゃんの視界には僕しか映ってへん。そう思ったら緊張して体が動かなくて、大ちゃんの鋭い視線から逃げられなかった。
久々に素の大ちゃんから話しかけられた気がする。たったその言葉だけでも涙が溢れそうな僕は、今この場に合う言葉を返すことが出来なかった。
わがままなことしてごめんって謝るだけで元通りになるはずやのに。
いつもみたいに本心を隠して、今さっき気づいた大ちゃんへの特別な感情を封印すればええはずやのに。
でも今本心を隠してこの場をやり過ごしたところで、心のモヤモヤが晴れないことは分かっていた。
どこか警戒しているような大ちゃんの声色が怖くて、嫌な汗をかいていることに気がついた。
こういうときになんて言えば良いのか分からんよ。
かろうじて僕が答えると大ちゃんは眉をひそめる。僕に対してこんな顔をする大ちゃんを見たことなかった。
僕と話すこと自体が心底嫌とでも言うくらい呆れたように大ちゃんが言う。一刻も早く関係を戻したい僕は何度も頷いた。
突然気づいた自分の感情と この後のことを考えると心配でしかたなくなるけど、自分の気持ちに気づいた以上 逃げたくない。
未だに整理のつかない頭で大ちゃんへの言葉を考えながら、僕は荷物を取りに行くため事務所の一室に戻った。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!